Aクラスセダン ▲過日の緊急(?)来日も大きな話題となった伝説のカーデザイナー、ジョルジェット・ジウジアーロ。伝説の存在ではあるものの、まだまだお元気なだけでなく、ジウジアーロ先生がデザインした「国産車」もまだまだ普通に入手することができます。ということで「総額200万円以下から狙えるジウジアーロな国産車」5モデルをピックアップしてみましょう!

欧州車だけでなく日本車のデザインも多数手がけていた巨匠

4月11~13日にかけて幕張メッセで開催された「オートモビルカウンシル2025」は、カーデザイン界の巨匠ジョルジェット・ジウジアーロが登場し、トークショーを行ったことでも大きな話題となりました。

ジョルジェット・ジウジアーロは、1938年イタリア生まれの工業デザイナー。様々な企業および自らが設立した「イタルデザイン」で自動車の傑作デザインを連発し、鉄道車両やカメラ等々においても名作デザインを発案し続けたことで「伝説の工業デザイナー」となりました。また彼のことを「現代のレオナルド・ダ・ヴィンチ」と呼ぶ人もいます。

そんなジウジアーロは地元であるヨーロッパの車だけでなく、日本の自動車メーカーが作った数々の車にも、デザイナーとして深く関与してきました。

この記事では「中古車市場で総額200万円以内で入手可能なジウジーアロデザインの国産車」5モデルを紹介します。
 

Aクラスセダン▲2024年にイタリア・ボローニャの一大クラシックカーイベント「Auto e moto d'epoca Fiera Bologna」で、トークショーに参加するため来場していたジョルジェット・ジウジアーロ
 
 

ところでジウジアーロってどんな人?

ジョルジェット・ジウジアーロは1938年、北イタリアの小さな村に生まれました。14歳で画家を志して名門美術高校に進学しましたが、この時代にたまたま書いた「フィアット 500 トポリーノ」のイラストが、まさにその車の設計者の目にとまり、弱冠17歳でフィアットのデザインセンターに入社。

そして21歳で名門カロッツェリア「ベルトーネ」のチーフスタイリストとなり、アルファ ロメオ ジュリアGTなどの傑作を担当。27歳になると「カロッツェリア・ギア」にヘッドハントされ、いすゞ 117クーペなどの傑作を残すことになります。

そしてカロッツェリア・ギアを退職した1968年2月に誕生したのが、自ら興した「イタルデザイン」です。

既存の自動車メーカーに代わってデザインワークからエンジニアリングまで行うイタルデザイン社は、初代フォルクスワーゲン ゴルフや初代フィアット パンダなど傑作小型車のデザインを連発。そして初代ロータス エスプリやBMW M1などのスーパースポーツの名作を生み出すとともに、4代目スズキ キャリイや初代いすゞ ピアッツァ等々、数多くの日本車のデザインも担当しました。イタルデザインの関与が公表されていないモデルまで含めると、ジウジアーロの筆が完成車のデザインに影響を与えた日本車の数はさらに膨大になるはずです。
 

Aクラスセダン▲「どちらが前で、どっちが後ろなのかわからない」とよく言われる4代目スズキ キャリイ(1969~1972年)の造形も、「イタルデザイン」を創設したばかりだったジウジアーロのデザインスケッチに基づいている
 

1981年には自動車以外の工業製品をデザインする「ジウジアーロデザイン」を設立。ニコンの様々なカメラやブリヂストンの自転車、イタリアの標準型電話機として長く使われた電話機「シーリオ」など、様々なプロダクトがジウジアーロデザイン社のデザイン室から誕生しています。

ジウジアーロは2015年7月にイタルデザインの株式をすべて売却しましたが、今年で87歳になる今も、息子のファブリツィオ・ジウジアーロとともに“現役の工業デザイナー”として、様々な作品を発表し続けています。
 

 

総額200万円以下から狙えるジウジアーロデザインな国産車①
いすゞ ピアッツァ(初代)|中古車価格:総額180万~270万円

ジウジアーロデザインの最大の特徴は「シンプルだが美しい」ということです。本当に必要な要素だけを残して贅肉をそぎ落とし、そのうえで特徴を出しているわけです。後付けのキャラクターラインなどによって「何となくそれっぽい感じ」を出すのではなく、骨格のプロポーション作りからデザインを始めることで、シンプルな(しかし絶妙な)面構成だけで「美しさ」を表現できるというのがジウジアーロの魔術であり、才能と努力の結晶でもあるのでしょう。

そして1981年に登場した初代いすゞ ピアッツァも、ジウジアーロデザインならではの「シンプルだが美しい」という特徴が大いに現れている1台です。
 

Aクラスセダン▲1981年から1991年まで販売された初代いすゞ ピアッツァ。1983年に道路運送車両法が改正されるまではフェンダーミラーが採用され、そのことにジウジアーロ先生はいたく落胆したらしい
 

登場した当時は「なんとも奇抜で前衛的な!」と感じた初代ピアッツァですが、今あらためて見ると、そのプロポーションや面構成は非常にシンプルであることに気づきます。

1970年代まではウインドウガラスの成型が3次元でできなかったため、車のキャビンはガラス成型の制約の関係でどうしても四角くなりがちで、ボディはサイドガラスから大きく張り出して作られていました。しかしピアッツァ(の原型となった「アッソ・ディ・フィオーリ」)は、サイドガラスの下のボディが、サイドガラスからつながった面で構成されています。

そんな初代ピアッツァの造形は、当時としてはきわめて未来的であり、前衛的でもありました。しかし今にして思えば「余計な装飾ではなくシンプルな面によって“美”を表現し、なおかつ空力特性などの実用性も追求する」という、ジウジアーロの持ち味が最大限発揮された「基本に忠実な1台」と言うこともできるのかもしれません。
 

Aクラスセダン▲「サテライト式コックピット」も当時はかなり斬新で前衛的なものに感じられた。だが右手側にライトスイッチなど11項目、左手側にワイパーなど13項目の操作スイッチを配することで「ステアリングから手を離さずに様々な操作が行える」という設計は、ジウジアーロの「ギミックではなく実用性と機能性を重視する」という基本姿勢の表れだったように思える
 

現在、初代いすゞ ピアッツァの中古車は希少ではあるものの、それでも全国で10台ほどが、総額180万~270万円付近の価格帯で流通しています。ジウジアーロデザインの真骨頂を味わいたい人は、ぜひチェックしてみてください。
 

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いすゞ ピアッツァ(初代) × 全国
 

総額200万円以下から狙えるジウジアーロデザインな国産車②
いすゞ 117クーペ(初代)|中古車価格:総額180万~600万円

「シンプルだが美しい」というジウジアーロデザインの特徴が初代ピアッツァ以上にわかりやすく表出しているのが、1968年に発売されたいすゞ 117クーペでしょう。
 

Aクラスセダン▲1968年から1981年まで販売されたいすゞ 117クーペ
 

1970年代の国産車を代表する1台といっても過言ではないいすゞ 117クーペは、ジウジアーロが当時チーフデザイナーを務めていたカロッツェリア・ギアに、いすゞがコンセプトとデザイン、パッケージ、スタイリングを委託した4座クーペ。

ギア時代のジウジアーロがスケッチの段階で描いた流麗なクーペデザインを実現させるためには、エンジンフードを低くする必要がありました。そこでジウジアーロはいすゞのエンジニアに「エンジン搭載位置を低くしてほしい」と伝え、いすゞはそれを承諾。

その結果として、ジウジアーロ得意の「シンプルだが美しい」という流麗なシルエットが出来上がったわけですが、その造形面は、当時の量産技術では実現させることができませんでした。そのためいすゞ 117クーペの初期モデルの板金面はハンドメイドで(大まかにプレスされた部品を溶接して、最後に滑らかに仕上げる形で)製造されていました。
 

Aクラスセダン▲なんともスタイリッシュでシブい117クーペのオリジナル内装
 

そんないすゞ 117クーペの中古車は、今でも20台ほどが流通中。ハンドメイドだった前期型はきわめて希少かつ高価だったりもしますが、一般的な個体であれば総額200万円台でも十分に検討可能です。
 

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いすゞ 117クーペ(初代) × 全国
 

総額200万円以下から狙えるジウジアーロデザインな国産車③
スバル アルシオーネSVX(初代)|中古車価格:総額120万~530万円

ジウジアーロの筆によるデザインの特徴は、前述した「シンプルだが美しい」ということに加えて「メーカーの要望を熟考したうえで答えを出す」という部分もあります。依頼を受けたメーカーの歴史や優位点などを調べ、それを自らのセンスと照らし合わせながらデザインを行うのです。

ジウジアーロのそんな特徴が色濃く現れたモデルのひとつが、1991年に発売されたスバルの当時のフラッグシップクーペ「アルシオーネSVX」でしょう。
 

Aクラスセダン▲こちらがスバル アルシオーネSVX。搭載エンジンは3.3L水平対向6気筒

アルシオーネSVXの前身にあたる「スバル アルシオーネ」は好き嫌いがはっきりわかれるタイプのデザインでしたが、スバルはそこを刷新するべく、結果として「アルシオーネSVX」という車名でデビューすることになる2代目のスケッチを、ジウジアーロのイタルデザインに依頼しました。

依頼を受けたジウジアーロは、スバルの歴史は「中島飛行機」という航空機メーカーから始まったことを、「3次元ガラスを採用した、戦闘機のようなグラスキャビン」によって表現。キャビンスペースはルーフを除いて全面ガラス張りとなり、曲率が小さいサイドウインドウの真ん中にフレームを通した姿は、どこか中島飛行機が過去に製造した旧日本陸軍の四式戦闘機のようでもありました。
 
Aクラスセダン▲様々な困難を技術革新により乗り越えることで実現した全面3次元ラウンドキャノピー
 

スバルからの当初の依頼は「新型レガシィ用に開発していたプラットフォームとパワーユニットを使用した5ナンバークーペ」という趣旨だったため、最終的にグラマラスなワイドボディになった市販バージョンと、ジウジアーロが描いたスケッチとでは異なる部分もあります。しかし基本的なデザインエッセンスは「ほぼスケッチのまま」ともいえます。

そんなスバル アルシオーネSVXの中古車は全国で20台ほどが流通しており、2025年5月中旬現在の中古車平均価格は約221万円。「ひと味違うラグジュアリークーペ」を現実的な予算でお探しの方は、ぜひチェックしてみてください。
 

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総額200万円以下から狙えるジウジアーロデザインな国産車④
スズキ SX4(初代)|中古車価格:総額35万~85万円

初代いすゞ ピアッツァやスバル アルシオーネSVXあたりのデザインをジウジアーロが行ったのはある種有名な話ですが、ジウジアーロおよびイタルデザインは、意外と普通な(?)国産実用車のデザインにも関与しています。

そのうちのひとつが、2006年から2014年まで販売されたスズキのコンパクトクロスオーバー「SX4」です。
 

Aクラスセダン▲2006年に登場した日欧合作のクロスオーバー、スズキ SX4
 

スズキ SX4は、スズキとフィアットが共同開発したコンパクトサイズなクロスオーバー車で、いわばスポーティな小型車である「スイフト」と、「エスクード」などのSUVをかけあわせたような1台。日本仕様のパワーユニットは最高出力110psの1.5L直4と、同145psとなる2L直4の2種類です。

ジウジアーロの「イタルデザイン」とスズキが協同で作ったエクステリアデザインは、インパクトのあるフロントマスクと躍動感あふれるフォルム、丸みを帯びたフェンダーが生み出す力強さが特徴的です。

最終的な市販バージョンの造形は「100%ジウジアーロによるもの」ではなく、スズキ側の意向もけっこう取り入れられたようですが、張りのある面構成と、全高が高い割に腰高感は感じさせないプロポーションなどは、「そう言われてみるとイタルデザインっぽい」と感じられる部分です。

中古車の流通量は全国で約10台と少なめですが、総額60万円前後でまずまずなコンディションの1.5L車が見つかるでしょう。
 

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総額200万円以下から狙えるジウジアーロデザインな国産車⑤
ダイハツ ハイゼットカーゴ(9代目)|中古車価格:総額20万~50万円

ジウジアーロはいすゞ 117クーペやBMW M1のようないわゆる名車だけでなく、カメラやミシン、自転車などのデザインも行う工業デザイナーであるため、当然ながら「はたらく車」のデザインも、そのキャリアの中で担当してきました。

そのうちの1台が、1999年から2004年まで販売された9代目の「ダイハツ ハイゼットカーゴ」です。
 

Aクラスセダン▲実はジウジアーロ(イタルデザイン)によるデザインだった9代目ダイハツ ハイゼット カーゴ
 

なんてことはない造形にも思える9代目ハイゼットカーゴのエクステリアデザインですが、のちの10代目(2004~2021年)と見比べると、凝った造形やプレスラインなどによってシュッとした感じを醸し出そうとしている印象が強い10代目に対し、ジウジアーロの筆による9代目は、例によって「シンプルな面と線によって美しさを作り出す」という特徴が出ているような気がします。

ちなみに2001年以降の後期型は、フロントグリルやバンパーなどの形状が変更されたことで「ジウジアーロっぽさ」が若干減じています。「はたらく車」としては年式的に新しい後期型の方がいいのかもしれませんが、もしも「ジウジアーロっぽさ」を優先するのであれば、オススメは2000年までの前期型です。
 

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ダイハツ ハイゼットカーゴ(9代目) × 全国
文/伊達軍曹 写真/スバル、いすゞ、スズキ、ダイハツ
伊達軍曹

自動車ライター

伊達軍曹

外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル レヴォーグ STIスポーツR EX Black Interior Selection。