ネットで話題の「サビだらけポルシェ」を買ったオーナーに会ってきた
2019/10/22

超絶サビだらけの――実際はサビているのではなく、サビだらけに見えるラッピングを施した――ガルフブルーのポルシェ 911。
今年10月3日にオーナー自身の手でツイッターに投稿されるやいなや、またたく間に1万件以上リツイートされ、5万件以上の「いいね」が付いたあの衝撃的な画像を、もしかしたらあなたもご覧になったかもしれない。
移動しているだけで凄く写真撮られるうちの車 pic.twitter.com/pMislpsEn6
— 北田@FVRCから文楽そして流転 (@kitada3_flame) October 3, 2019
その911のオーナー(=投稿主)はかなり重度のポルシェ 911マニアか、あるいは「変なラッピングが大好きでたまらない人」ではないかと勝手に想像していたのだが、実際にお会いしたオーナー氏はそのどちらでもなかった。
オーナー氏はなぜ、サビだらけ(に見える)不思議なポルシェ 911に乗るに至ったのか? ご本人から話をうかがった。
何かの縁を感じずにはいられなかった
「このラッピングは僕が業者さんに依頼したわけじゃなくて、どなたかは存じ上げない前オーナーさんがやったものなんですよ。
というか、僕はそもそもポルシェ 911なんて買うつもりはなかった。僕が買おうと思っていたのは、シボレー コルベットかマスタングだったんですよ!」
そう勢いよく語るのは、サビラップポルシェ(と筆者が勝手に呼んでいる)2013年式ポルシェ 911 カレラ4Sのオーナー、北田能士さん。CGやVFXなどの制作プロダクションを営んでいる社長さんだ。
といってもご本人いわく「会社経営」をしているつもりはあまりないそうで、「好きなことを好き勝手に突き詰めていたら、いつの間にかこうなってしまった」とのこと。
日本全国のみならず、各種イベントのため海外にも頻繁に出張している多忙な人だ。

「で、60年代末期のコルベットをずっと探していたんですが、なかなかちょうどいい物件が見つかっていなかったある日、知人がこのポルシェ 911をどこかでたまたま見つけたようで、SNS上で『誰か、この面白い911買わない?』みたいな話をしていたんです」
その「知人」というのは、かつて理化学研究所に勤めていた有名な先生で、藤井さんという方。で、それを読んだ北田さんは、さっそくそのサビサビラッピングが施されたポルシェ 911を購入した……かといえば、ぜんぜんそうではなかった。
「僕自身はコルベットを買う気満々でしたので、あくまでお手伝いのつもりで『誰か買う人がいないか、僕も調べてみますよ』的なやりとりをSNS上でしていました。
そうしたら、なぜか知りませんがいつの間にか『北田が買うらしい』みたいな空気ができあがってしまい、この車を販売していた中古車販売店さんも『キャリアカーで北田さんの会社までお見せしに行きますよ!』みたいな感じで盛り上がっちゃって。
で、その時期はちょうど中国でやるライブイベントの関係でクソ忙しかったんですが、しょうがねえなあ……みたいな感じでとりあえずこの911を見てみることにしたんです」
積載車でやってきたサビラップポルシェに試乗してみた北田さんはそれを大いに気に入り、購入した……のかと思ったが、それもまた違った。
「イマイチだったんですよね。あ、中古車としてイマイチだったという意味ではありません。走行わずか8000kmぐらいの上物でしたし、その割には値段も高くはなかったし。
そうではなくポルシェ 911という車自体が、僕には合ってないように感じられたんです。社用車として今も乗っているアウディ S5の方が、僕としては断然運転しやすいなあ……みたいな感じで。でも、結局は買ったんですけどね」
翻意した理由は「ボディカラー」だった。
「この車、ボディ表面は見てのとおりサビだらけに見えるラッピングがされているわけですが、元の色は赤なんですよ。車内の一部はラッピングされてませんので、それはすぐにわかりました。で、『そうか、赤か……』と感じ入ってしまいまして」
約1年前に亡くなった北田さんのお母様は旅館を経営していた。その関係で、お母様にとって車といえば商用車で、商用車以外の車は買ったことも乗ったこともなかったという。
「まあ僕には母もそれで何の不満もなかったように見えてたんですが、母の死後、姉から聞かされたんです。母は亡くなる前に、『仕事を引退したら、赤いスポーツカーに乗りたいねえ』って言ってたって。
……その夢をかなえる前に亡くなっちゃったわけですが、母が欲しがっていた“赤いスポーツカー”が妙な巡り合わせで自分のところに来たのも、何かの縁というか“必然”なのかなぁと思いまして……」



それに加えて、サビラップポルシェと巡り合うきっかけを作ったあの藤井さん(かなりの車好き)が、自身のFacebookに投稿していたこんな一文も脳裏によぎった。
『911を買うっていうのは人生の宿題のようなもので、一度は通らないとダメなのだという強迫観念があるのだけど、一方で積極的に911を買わないという選択は新しいモノとの関わり方を拓く気もしていて、今のGTRの次に買うのが911なのかどうなのかで、オレの残りの人生が決まるような気がしてる。』
ポルシェ 911は一度は“履修”するべきなのかもしれない……。そう思った北田さんは、結局、サビラップポルシェを買ってみることにした。今年7月のことだった。
購入を決めたのは今年7月だったが、納車は9月にずれ込んだ。販売店(静岡県のLA SSERRE Cars)がノリノリで、ラッピングのちょっとした不具合箇所などまでを直しまくったからだ。
「納車後は、とにかく人に見られまくりますね。購入前に試乗したときの様子も3~4人の知人にたまたま目撃されていたんですが、納車日も、ぜんぜん知らない人からいきなり声をかけられましたし。とにかく目立っちゃいますね。変な運転はできません」
なんて言ってるそばから、撮影中のサビラップポルシェの横を通りがかった保育園の先生方と推定2歳のちびっこたちが、口々に「すご~い!」「カッコいい!」と叫んでいる。なるほど確かに、目立ちすぎるほど目立つ車だ。
「でも、僕はこの911を“自分のブランディング”みたいなモノに利用する気はさらさらないんです。好きで乗ってるだけですし、というか、なりゆきに身を任せて買っただけですから。仕事でもフツーにこの車を使ってますが、それは会社から一番近い駐車場に置いてるのがこの911だから、というだけの理由です」
とはいえ狭義のファッションではなく「広義のファッション」にはかなり興味があるという北田さんは、このサビラップポルシェの細部を今後どうアップデートさせていくべきか、少々頭を悩ませている。
「ツイッターのリプライでも指摘がありましたが、この車、ボディはサビサビに見えるのですがホイールはツヤツヤですよね? ここもボディと同じようにエイジング加工をするべきなんでしょうが、そうすると、これまたツヤツヤなヘッドライトとかとの整合性をどう取るべきか……という問題も出てくる。全体のバランスが難しいですね。でもまぁゆっくりじっくり、考えながらアップデートさせていきますよ」



ゆっくりじっくり。「できることなら将来、ウチの子供にこの911を引き継ぎたいですよね」と言う北田さんは、同時に「でも、気が変わって2~3年で手放しちゃうかもしれませんけど」とも言う。
サビラップポルシェと北田さん(と、その息子さん)の関係と運命が今後どうなっていくのか、当然ながら筆者にはわからない。それどころか、まるで風のように自由に生きている北田さんご自身にも、わかっていないだろう。
しかし少なくとも今、サビだらけに見えるポルシェ 911はある意味、輝きまくっている。

自動車ライター
伊達軍曹
外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル XV。
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