トヨタ カレンとの出会いは偶然に。父が教えてくれた運転の楽しさを胸に走る青年
2021/05/03

車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?
本命は父に教えてもらっていたセリカだったが……
車と車の運転、そして「トヨタ」が大好きだった、今は亡き父。そんな父が若き日に購入した1台が、「ダルマのセリカ」こと初代トヨタ セリカ1600GTだった。
一人息子である佐々木啓人さんが生まれると、父は子育てを優先するため自家用車をトヨタのミニバンへとくら替えさせ、以降の佐々木家はノア/ヴォクシー系を乗り継ぐことになった。
だが、息子には「お父さんは若い頃、ダルマのセリカってやつに乗ってたんだ。そしてそれは、すっごい素敵な車だったんだぞ」という意味のことを語り続け、一人息子も、写真でしか知らないそれを「なるほど、素晴らしい車であるな」と認識するようになった。

そんな一人息子が18歳になって運転免許を取得すると、当然(?)トヨタ セリカが購入候補となった。
中古車情報サイトで綿密な下調べを行い、「これぞ!」という1台のセリカを見つけた啓人さんは販売店に連絡を入れたうえで、セリカの中古車を見に行った。

しかし、店頭にあったのはST200系のトヨタ セリカではなく、その姉妹車である「トヨタ カレン」だった。販売店が、車名登録をミスっていたのだ。
「えっ……? と思いましたが(笑)、もともと欲しいと思っていた『MTのクーペ』であることに違いはありませんし、コンディションも素晴らしいものであるように思えたので、『まぁカレンでもいいか』ということでそのまま購入しました」

97年式のトヨタ カレン ZS。5MTで走行6.4万km。人気車種であるセリカの類似条件車は当時140万円ぐらいというのが相場だったが、正直人気薄車であったカレンはほぼ半値だった。
2017年。おそらくは一生続くことになる佐々木啓人さんとトヨタ カレンとの生活が始まった。
「同時期のセリカGT-Fourが搭載していたターボエンジンも素晴らしいのですが、カレンの、自然吸気エンジンならではの乾いた快音が本当に素敵なんですよね。ウチの近所は坂道が多いのですが、朝、通勤のためにカレンに乗り、そして坂道を駆け上がっていくときに車内に入ってくるエンジン音を聴くたびに、しみじみ『いいなぁ……』と思ってます」
好きな運転を生かせる天職
職業は路線バスの運転士。高校卒業直後は、いわゆる一般的な企業に就職した。
「最初の仕事はすごく大変で。大変なこと自体はいいのですが、自分にとってはまったく面白くなかったんですよね。で、『こんなにもつまらないことを、それでいて大変なこと、一生やっていくのか……』と考えると、これはもう早めに方向転換した方がいいだろうなと」
ほぼすべての仕事は「大変」ではあるため、それはいい。だが「仕事は楽しいと感じるもの、打ち込めるものでもあってほしい」と考えたとき、佐々木啓人さんにとってのそれは“車の運転”だった。

「父は車好きでしたが、車自体のマニアというよりは『車を運転すること』あるいは『車でどこかへ行くこと』を愛していたような気がします。そして、僕もそんな父に育てられたので――もちろん車も好きなんですが――“運転”という行為自体がとてつもなく好きなんですよね」
その“好き”を生かせる仕事として、バスの運転士を選択。当然ながら未経験ではあったが、筋が良かったのか最短で育成期間を終えて一人前に。弱冠23歳にして、神奈川県内の非常にテクニカルなルートを走る営業所に配属された。
「ここで大型バスの運転テクニックの詳細をお話しする余裕はありませんが(笑)、お客さまの身体をなるべく揺らさずに、絶対的に安全に、それでいて定刻どおりに走らせる――というのは当然大変。でも、僕にとってそれは『好きなこと』でもあるので、毎日本当にやりがいを感じながら、バスのステアリングホイールを握ってます」

トヨタ カレンは今、そんな仕事の営業所までの通勤車として使われている。
「カレンには毎日乗りたいですし、でも走行距離はあまり延ばしたくないしということで、それならば、自宅から近からず遠からずの場所にある営業所までの通勤に使うのが一番かなと思いまして」
もちろんバス会社の運転士は「深夜バス」を担当することも多いため、その場合は勤務が明けると非番になる。そのため、毎日必ず通勤しているわけでもない。となると非番の日や休日は、カレンに乗ってどこか遠くまで出かけるのだろうか? と問うと、佐々木啓人さんは「その場合は、もう1台ある別の車で行きます」と答えた。
「僕はスキーも昔から大好きなので、冬場は友人としばしばゲレンデに行くのですが、そのためにカレンの距離を延ばしてしまったり、融雪剤の影響で下まわりを傷めてしまうのも嫌なので、実は『遠くまで行く用の車』も持ってるんです」
だが、その「遠くまで行く用」は、本当に「遠くに行くときだけ」しか使用されない。

「普段はやっぱりカレンに乗りたいですからね。遠くまで行く用の車は、自宅からちょっとだけ離れた駐車場で、カバーをかけて眠ってもらってます」 トヨタ カレンという車の何が、啓人さんをそこまで引きつけるのだろうか。
「何なんでしょうねぇ……。この手頃なサイズ感がきわめて気持ちいいですし、インパネからグローブボックス上端、そして助手席側ドアトリムへ続くラインも好みです。音もいいんですよ。先ほど申し上げた自然吸気エンジンの乾いた音もそうなんですが、この車ってウインドウがサッシレスなので(編注:窓枠がない作りであること)、最近の車と違って静粛性は決して高くはないんです。でも、外の音が車内にある程度入ってくること、地球や社会とのつながりを感じられることの方が、やたらと静かな車を運転する以上に、僕にとっては魅力的なんですよね」
そうして大切に維持しているカレンも、いつかはエンジンに致命的な故障が発生するかもしれない。また、「ガソリンエンジン車は公道を走れなくなる」という近未来も、なくはない。
「まぁそうなったとしても大丈夫ですよ。カレンのエンジンを取っ払ってEV化して、ずっと乗り続けますから(笑)」
この日も、深夜バス担当勤務から上がったばかり。だが、まるで疲れを感じさせない表情で、佐々木啓人さんはそう言い切った。
激務であっても疲れない理由は、愛するトヨタ カレンを今日も運転できているからか。もしくは、“好き”を仕事にしているからか。
まぁ、両方なのだろうな。


佐々木啓人さんのマイカーレビュー
トヨタ カレン(初代)
●購入金額/70万円
●年間走行距離/約5000km
●マイカーの好きなところ/リアフェンダーの柔らかい盛り上がり
●マイカーの愛すべきダメなところ/特にありません!
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/セリカとは一味違った魅力を探している人

自動車ライター
伊達軍曹
外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル レヴォーグ。
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