【スーパーカーにまつわる不思議を考える】スーパーカーが作れる国と作れない国の違い、そして定義とは?
2022/02/21

なかなか垣間見えるような世界ではないが、車好きならどうしてものぞいてみたくなる。それがスーパーカーの世界である。ではスーパーカーには定義はあるのだろうか? そもそも、なぜ少数生産なのにメーカーが立ち回れるのだろうか。
日本メーカーが不得意な少量生産ビジネス
少量生産のスーパーカーを作ることは誰にでもできることではない。そして、近年はさらに難しくなってきている。そもそも、日本をはじめとして現代の自動車産業では開発から製造、販売まですべてが大量生産を前提として成り立っているからだ。
2015年にホンダ S660がデビューしたが、その時ホンダはあらゆる革新的手法を導入して1日40台という「非常識」な少量生産を実現したとアピールした。だが、残念なことに昨年、生産中止がアナウンスされてしまった。要はこの程度の販売台数では、日々厳しくなるレギュレーションに対応するための開発コストを算段することが難しくなったということであろう。S660も少量生産車としてみれば、そこそこ売れているし、評価も高いのだが……。
しかし、「スーパーカーの聖地」であるイタリアでは、モデナ地区を中心に今もフェラーリやランボルギーニなどの極少量生産メーカーが大きな利益を上げ、それ以外にも幾つものプロジェクトが誕生している。
なぜこんなことが可能なのか。それは、この地域にスーパーカー開発のリソースが集結し、少量生産を可能にしているからである。販売価格も高価であり、会社の規模も小さいから、販売台数が少なくとも新規開発のためのコストを絞り出すことができる。ちなみに、先日発表されたデータによると、フェラーリは2021年に1万1155台を販売し、これは彼らにとって新記録となった。
ただ、こういった少量生産ビジネスが成立するのは、そういったハードウエア的側面によるものだけではない。ホンダには最新テクノロジーを導入したNSXというスーパーカーがラインナップされているが、残念ながらこのモデルも2022年をもって販売終了がアナウンスされている。
NSXは北米における開発・製造が行われたモデルであり、新車販売価格は2000万円台とフェラーリのエントリーモデルと重なるほどの高価なモデルだ。NSXが販売終了となるのは、販売台数が低迷し、将来的な展望が見えなかったためといわれている。こちらはメインマーケットと想定していた北米で売れなかったのだ。つまり、よく出来た車であるにも関わらず、残念ながら顧客はこのNSXに2000万円台というブランド価値を見いだすことができなかったのだ。

▼検索条件
ホンダ S660 × 全国
▼検索条件
ホンダ NSX(初代) × 全国
▼検索条件
ホンダ NSX(2代目) × 全国肝心なのはブランディング
このブランディングという側面が、ライバルメーカーにはないイタリアンスーパーカーの大きなアドバンテージなのである。モデナのスーパーカーメーカーは、絶えずそのブランドの価値を高めるためのアピールを続け、少量生産スーパーカーを作るフィロソフィーを引き継いでいる。スーパーカーとは、作り手が自分で名乗るものではなく、顧客がそれを認めてくれて、初めて名乗れる世界観だからだ。厳しい話だが「良いモノを作れば評価される」という世界ではない、それが現実だ。
では、そもそも「スーパーカー」とは何であろうか? 筆者は拙著『フェラーリ・ランボルギーニ・マセラティ 伝説を生み出すブランディング』にて、「スポーツカーであるが、レースカーではなく、ラグジュアリーなエクステリアとインテリアを持つ少量生産自動車」と定義した。
スーパーカーとは、普通の車とは一線を画した「異形の存在」であるということが最大の魅力であり、それこそが顧客の求めているものなのだと思う。エンツォ・フェラーリやフェルッチョ・ランボルギーニらの言動を、今も彼らが生きているかのように顧客へと伝え続けている。フェラーリがF1から撤退するのはメーカーを畳むときだろうし、ランボルギーニがフェラーリに対する対抗心を捨てることもないだろう。なぜなら、彼らはスーパーカーを欲する富裕顧客が何を求めているかを絶えず研究し続け、彼ら独自のブランド戦略を構築してきたからだ。
しかし、スーパーカーという単語は興味深い。自動車ファンの間では、世界各国でその意味は理解されるものの、日本においては際だって特別な意味を持つ。「エキゾチックカー」「ハイパフォーマンスカー」といった表現とは違った親しみ深い名称だ。なんと言っても、日本は世界で唯一、スーパーカーブームという日本全国の子供たちを巻き込んだ一大ムーブメントがあったのだから……。その中で、スーパーカーの起源といえば、やはりランボルギーニ ミウラではないだろうか?
次回、そのミウラについて、少し語らせていただこうと思っている。



自動車ジャーナリスト
越湖信一
新型コロナがまん延する前は、年間の大半をイタリアで過ごしていた自動車ジャーナリスト。モデナ、トリノの多くの自動車関係者と深いつながりを持つ。マセラティ・クラブ・オブ・ジャパンの代表を務め、現在は会長職に。著書に「フェラーリ・ランボルギーニ・マセラティ 伝説を生み出すブランディング」「Maserati Complete Guide Ⅱ」などがある。
【関連リンク】
日刊カーセンサーの厳選情報をSNSで受け取る
あわせて読みたい
【試乗】新型 アストンマーティン ヴァンキッシュ|V12を積んだ新たなFRフラッグシップは、リアルスポーツからGTまで劇的に変化する乗り味を得た!
6月は北イタリアでスポーツカー三昧! “モーターヴァレー”のスーパーカーブランドが一堂に会する一大イベントとミュージアムへの誘い【スーパーカーにまつわる不思議を考える】
N-BOX ジョイの新車価格に絶望した人に贈る「100万円ちょっとで買えるSUV風軽自動車、代わりにどうですか?」3選
“SUV疲れ”した人に贈る「代わりに、実用性も備えるスタイリッシュフォルムが新鮮なコレ、どうですか?」5選
~その使命は感情を揺さぶる存在であり続けること~ スーパーカー論【カーセンサーEDGE 2025年7月号】
【試乗】新型 テスラ モデルY|もはや走りにも文句はなくなり全方位進化でBEV最強の1台へ!
【試乗】新型 アウディ A5|堂々たるサイズの新ネーミング基幹車種、ベーシックモデルも必要十分に実用的!
【試乗】新型 ヒョンデ インスター|軽自動車の十八番を奪うBEV! 愛らしいスタイルでも快適性はクラス以上!
その存在意義を考えさせられた、古都を舞台としたコンクールデレガンス
【試乗】新型 BMWアルピナ B4 GT|Dセグメントセダン最上! 良質なライドフィールを濃密に楽しめる“実用スーパーカー”