“ハイドロ”に魅了され手に入れたシトロエン C6が、今では社会との窓口に
2022/04/13

車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?
ハイドロニューマチックと出会い、シトロエンの沼にハマることに
最初に買った車は、B210こと3代目の日産 サニー(正確にはダットサン サニー)。社会人になってからはトヨタのAE86(いわゆるハチロク)に乗り替え、結婚後もそのAE86に乗り続けた。
だが、第1子が誕生するタイミングで妻から「さすがにこの乗り心地はどうなのか?」との旨の意見が出て、フランス製のコンパクトハッチバック「ルノー サンク」に乗り替えることに。
そこから伴 宣久さんの“フランス車人生”が始まった。
「ルノー サンクはカーグラ(筆者註・雑誌「カーグラフィック」)の表紙になっていたのを見て『素敵だな』と思って買ったのですが、実際、かなり素敵なコンパクトカーでした。そしてその次に購入して、結果として7年間乗ることになったシトロエン BXによって、ハイドロニューマチックというシステムに取り憑かれてしまったんですよね」
1955年のDSにはじまり、1982年から1994年まで販売されたシトロエン BXなどに採用された「ハイドロニューマチック」とは、金属バネとショックアブソーバーの代わりに窒素ガスと専用オイルを使うサスペンションシステム。
油圧を巧みに使って上下動を意図的に作り出すことで、独特の上質な乗り心地を得ることができ、コーナリング時の姿勢変化も少ない。そして車高調整機能も備えているため、乗車人数にかかわらず車高は一定。さらには、サスペンションと同じ油圧系統をブレーキにも用いているという、かなり独特な、しかし素晴らしい乗り味を提供してくれるシステムだった。
▲シトロエン C6は、本国では大統領を載せるような車ゆえ、特に後部座席の乗り心地は本当に素晴らしいというそんなシトロエン BXに約7年間乗った後は、勤務先の研修でしばらく英国に住んでいたこともあって、帰国後ランドローバー ディスカバリーにも約5年間乗った。
だが、基本的にはフランス車を中心に――具体的には、ハイドロニューマチックの発展型であるハイドラクティブIIIを採用した初代シトロエン C5ブレークと、こちらは一般的な金属バネだがプジョー 407に、乗り続けた。
「でもそんなある日、本当に“ふと”という感じで『そういえばシトロエンのフラッグシップであるC6って、どんな乗り味なのかな?』と思い、申し訳ないですけど半ばひやかしのつもりで、専門店まで試乗しに行ったんです」
シトロエン愛好家の間では有名な東京都品川区の専門店で、生まれて初めてシトロエン C6を運転してみた伴さん。するとその脳内からは「ひやかし」という概念が完全に吹っ飛び、「……これはもう買うしかない」と思うに至ってしまった。
当時乗っていたプジョー 407はまだローンの途中だったそうだが、「407は息子に無理やり押し付けることにして(笑)」、伴さんは晴れてハイドラクティブIIIプラスという、ハイドロニューマチックの最終発展型を採用した当時のフラッグシップ、シトロエン C6のオーナーになった。
それも一般的な正規輸入モデルではなく「ディーゼルターボエンジン搭載の英国仕様」という、マニアックな選択だった。


シトロエン C6という車の素晴らしさについては、専門店で試乗した際に理解していたし、様々な書物や雑誌などを通じて得た知識も持っていた。
だが、実際に自分の車として日々使うC6は、想像を超えていた。
「2010年にこのC6を買いました。約1年後に東日本大震災が発生してしまったのですが、2011年から2016年までずっと、仲間たちと東北の被災地までボランティアに行ってたんです。東京から三陸まではおおむね250kmの距離がありますが、金曜日の深夜に250km走って現地まで行き、土日の日中にボランティア活動を行い、そして日曜日の夜にまた250km走って東京まで戻る……となると、普通の車であれば、往復の運転だけでけっこう疲れ果ててしまうと思うのですが――」
確かにそうだろう。筆者にも、ほぼ同じ経験がある。
「でもこのシトロエン C6だと、本当にいっさい疲れないんですよ。日曜日の深夜に自宅に着いても翌朝、何の問題もなく勤務先へ向かうことができる。C6という車の“疲れなさっぷり”は、ある種異様とすら言えるのかもしれません」
▲特徴的なリアのデザインと、高速走行時にせり出てくるスポイラーもお気に入りポイントC6が「人との出会い」を作り出してくれる
また、伴さんにとってシトロエン C6は、様々な意味で“人”とつながるためのツールというか、窓口にもなっているという。
「私はこう見えてお硬い役所に勤めている技術系の公務員なのですが、そういった仕事をしているだけでは決して知り合うことはなかったはずの様々な人と、シトロエン C6という車は引き合わせてくれるんです」
年齢も性別も職業もバラバラなシトロエン愛好家たちと、様々な情報交換を行い、そして“人対人”として真摯に楽しく付き合うことが、伴さんの毎日における大いなる楽しみのひとつとなっている。
「他の車種でもそうだとは思うのですが、シトロエン乗りは特に“いろいろな人”がいますので(笑)、刺激的で楽しいんですよね。私もそろそろ退職の時期を迎えます。そうなると今以上にシトロエン C6は、私と社会との接点というか窓口として、非常に大切な役割を果たしてくれるんじゃないかと思っています」
移動するための機械=車としては、他にもたくさんの選択肢はある。
だが、少なくとも伴さんにとっては、“これ”じゃないといけない。このシトロエン C6がないと、困るのだ。


伴 宣久さんのマイカーレビュー
シトロエン C6
●年間走行距離/約7000km
●マイカーの好きなところ/乗り心地の良さ、長距離も余裕でこなせるところ
●マイカーの愛すべきダメなところ/回頭性が低いため、山道などのワインディングは少し弱いかな
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/人と同じものは嫌だ、車格でマウントされたくないという人にオススメ。リアシートの居住性も素晴らしいので、よく人を乗せる人にも

自動車ライター
伊達軍曹
外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル レヴォーグ STIスポーツ。
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