多くの仲間とトヨタ ヴィッツに支えられ、「レーサーになる」夢に再びチャレンジ!
2023/05/03

車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?
一時的に夢をあきらめて気づいた思い
「やっぱり俺、レースがしたいんだ」
子供の頃から「レーサーになりたい」と思っていた。
だが生まれ育ったのは、いわゆる普通の家庭。子供に対して湯水のようにお金を使い、レーシングカートをはじめとする「モータースポーツの早期英才教育」を施せるような家では決してなかった。だから小学生だった茂木さんは、夢をあきらめた。一時的に。
だがあきらめたのは、あくまで「一時的に」でしかなかった。そして、どうやら才能もあった。
高校生になるとアルバイトをして自ら資金を作り、レーシングカートを始めた。そして大学受験をする頃には「このままレースの道に進むか、それとも進学するか?」と悩むほどのレベルにまで到達していた。
結局は名門国立大学の芸術専門学群に進むことに決めた。そして19歳で購入した初代マツダ ロードスターにて、競技ではなく走行会レベルのサーキット走行を楽しんだり、レーシングサイドカーのドライバーをやりながらも勉学に励み、プロダクトデザイナーとして就職した。
だが就職後も心の中にはずっと、小さいが、激しく燃える熾火のようなものがあった。
「やっぱりレースがやりたい」
「できることなら “レーサー”になりたい」
「自分は速い――ということを、正式に証明してみせたい」
そのような思いを抱えながら「趣味としてのスポーツ走行」は続ける日々の中で昨年、プロレーサーの蘇武喜和氏と知己を得た。
現在39歳の蘇武選手は、スーパー耐久シリーズに参戦中の凄腕プロレーサーだが、「社会人になってから初めてサーキット走行を経験し、25歳で公式戦に初参戦。29歳でスーパー耐久のシートを勝ち取り、会社を辞めて専業レーサーになった」という遅咲きのレーサーだ。幼少期から湯水のようなお金を使って「モータースポーツの早期英才教育」を施されたレーサーたちとは、いわば対極の存在である。
そんな蘇武選手に「やっぱり俺、レースやりたいんですよね……」と告白すると、蘇武選手は答えた。
「そんなにやりたいなら……やればいいじゃん? ヴィッツのワンメイクレースなら実はそんなにカネはかからないし、茂木くんが“名前を上げる”ための手段としても、ちょうどいいんじゃないかな?」
そうか、その手があったか――と得心した茂木さんは2022年12月、「トヨタ ヴィッツ RSレーシング」の中古車を、けっこうな格安予算で入手した。
▲レース車両らしくフルバケットシート&ロールバー装着だが、実は仕事や買い物など、普段の生活でも大活躍しているというトヨタ ヴィッツ RSレーシングとは、トヨタ ヤリスが2020年2月に発売される以前にTOYOTA GAZOO Racingが主催していた「ヴィッツレース(ヴィッツのワンメイクレース)」に参戦するためのベース車両。現在はヤリスを使った「Yaris Cup」に変更されているため、ヴィッツのワンメイクレースは各地のサーキット単位で行われている。
猛練習が始まった。同一性能のマシン同士で闘うワンメイクレースゆえ、激しいサイド・バイ・サイド(レース中にタイヤとタイヤが接触しそうなほど横並びに近づく状態)が予想される。そのため「自分が意図したとおりの場所にタイヤを通すこと」を徹底練習した。
右のタイヤで白線を踏む。次は、左のタイヤで正確に白線を踏む。そしてカーブ途中の路面に穴ぼこがあれば、「フロントタイヤはあの穴の外側を通して、右のリアタイヤで穴を踏んでみる」等々の訓練を公道にて法規内で、繰り返した。
当然ながらサーキットも走り込んだ。しかしヴィッツ RSレーシングは、ハードに走り込んでもまったく壊れなかった。つまり、モータースポーツには付き物の「莫大なメンテナンス費用」が、さほどかからなかった。その分だけ練習を重ねることができた。そして友人たちも、モータースポーツ参戦においてどうしても必要になる様々な役割を買って出てくれた。
そして2023年3月26日。ヴィッツ RSレーシングが手元にやってきてから約3ヵ月にして、茂木さんおよびチームは“初戦”を迎えた。

仲間たちと勝ち取った初勝利!
結果は――優勝だった。
2位となった選手とのタイム差はわずか0.471秒という超接戦で、事前に予想していたとおりの超サイド・バイ・サイドな展開だった。しかし、茂木さんは生まれて初めての「四輪のハコ車」での公式戦で、自らの才能を証明してみせたのだ。
「いやもちろん僕ひとりの力で出した結果ではなく、友人たちが“チーム”になってくれたからこそですし、レース前日には蘇武さんもわざわざ来てくれて、雨の筑波サーキットを走るうえでのアドバイスをしてくれました。そういった諸々があって初めて出すことができた“結果”なんです」
▲大雨の中、文字どおりサイド・バイ・サイドの激戦を繰り広げ、他の車両と接触。「やっちゃいましたね(笑)」
茂木さんのチームは今年、計6戦の「2023 Vitz Race in 筑波」を闘う。もちろん予断は許さないが、いい結果を出し続けられそうな気配は濃厚に漂っている。
だが「その先」はどうするのか? つまり茂木優太はこのまま――まるで蘇武選手のように――「遅咲きのプロのレーサー」を目指し、子供の頃以来の夢を実現させるつもりなのか?
「うーん……難しい質問ですね。現在は自己資金にプラスして、少々の個人スポンサーさんのお金で走らせてもらってますが、少なくとも来季以降は『自分の支出を減らして走ることができる段階』に移行していきたいとは思っています。
それは『経済的な負担を減らしたい』というのももちろんあるのですが、それ以上に『お金を出していただける』ということは『誰かに求められて走る』ということじゃないですか? 今は“自己満足”と“応援してくれる友人のため”みたいな部分で走っていますが、今後は――専業になるとか、そもそもなれるかは別として、“走ることの楽しさ”を多くの人にしっかり伝えることができる人間に……なっていきたいですね」
▲少しずつスポンサーも付くようになり、身が引き締まる思いだという。ちなみにゼッケンナンバー523は、彼女の誕生日に由来しているのだとか茂木さんは現在、YouTubeにて「ただの走り屋がプロレーサーを目指してみた!」という趣旨の動画を配信しており、Twitterでも同趣旨の話を、ご本人いわく「垂れ流してます(笑)」という。
茂木さんの挑戦が今後どういった地点に着地することになるかは、それこそ「神のみぞ知る」であり、誰にもわからない。
だが少なくともこの青年の挑戦は確実に――面白い。莫大なお金を使って早期英才教育を受けてきたエリートたちの走りを見ているよりもずっと面白いと、思うのだ。


茂木優太さんのマイカーレビュー
トヨタ ヴィッツ(3代目) RSレーシング
●購入価格/知人のツテでかなり安く譲ってもらいました
●年式/2015年
●マイカーの好きなところ/荷物がたくさん載るところ。普段使いもレース時も余裕です!
●マイカーの愛すべきだめなところ/トルクがちょっと細いところ。そしてオーディオが無い(笑)
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/壊れないしお金もかからないので、若い子でサーキット走行にチャレンジしたい人にオススメです!

自動車ライター
伊達軍曹
外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル レヴォーグ STIスポーツ。
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