西川淳の「SUV嫌いに効くクスリをください」ベントレー ベンテイガV8の巻
2022/02/06
▲2016年に登場したベントレー初のSUV「ベンテイガ」。ベントレーならではのグランドツーリング性能を備えながらも、オフロードや雪道での高い走行性能も誇るというこのV8ツインターボはエンジン好きをとりこにする
ミュンヘンで初めてベンテイガV8を試したときのこと。アウトバーンでは当然ながら極上のグラントゥーリズモで、SUVであることを意識したのは視線の高さのみで、このキャラクターはいずれのグレードにも共通するベンテイガの魅力だ。ベントレーの本領は今も昔も最高のGT。それはSUVになっても変わらない。
W12に比べてV8の方が好きかも、と初めて感じたのは、一般道に降りて山岳地を目指してからだった。冬のさなか。当然ながら雪模様。路面もところどころに凍結があった。そんな中を優れた電子制御に助けられながら軽快に走っていく。まるで不安がない。むしろ積極的に運転を楽しみたくなる。重量(現行モデルのW12はスピードのみで、わずかに+40kg)というよりも、パワー&トルクの出方と車体とのバランスが優れてマッチしているのだと思う。
▲搭載されるV8ツインターボエンジンは、2000rpmから4500rpmの広い回転数で最大トルク770N・mを発揮。0→100km/h加速は4.5秒、最高速度は290km/hを誇る
▲伝統のある「ベントレーウイング」エンブレムがボンネット先端に備わる広場の雪を固めて作った圧雪&氷結路面の専用コースにおける振る舞いもまた圧巻だった。滑りやすい路面でも車重はほとんど感じさせず、雪の上ではしっかりとグリップして、まるでラリーカーのように走り回ることができた。
そうなるとがぜん、悩ましくなる。(予算の問題はさておき)スピードに積まれたW12の滑らかでかつ力強い回転フィールはやっぱり忘れ難い。さらに、後から加わったV6 PHEVには未来と社会性を感じる。けれども、V8ツインターボ仕様の“車体としてのハーモニー”にも大いに惹かれる。
このV8は、車好き、エンジン好きをとりこにする上質なエンジンフィールの持ち主だ(だから他のスポーツカーブランド用としても活用されている。否、そういう用途もあったから官能的に仕上げられたとも言えるだろう。W12に勝るとも劣らぬ精緻なフィールで、ついつい高回転域まで回してみたくなってしまうのだ。
実用上は2000rpmもあれば十分に事足りる。猫が喉を鳴らしているような心地よいエンジンフィール&サウンドの領域で街中から高速域までをカバーするからだ。ややソリッドながら路面をなめるように進む上等なライドフィールと相まって、ゆっくり余裕を持って走ろうという気分にさえなる。V8フィールを堪能した後であっても、だ。心に余裕ができるからだろう。
▲オーダーメイド可能なインテリアは、10.9インチ高解像度タッチスクリーンやデジタルメーターを備える
▲カラー、ステッチ、模様などほぼすべてをカスタマイズできるシートは、イギリスの工場で職人の手によって生産されている筆者は過去にベンテイガで砂漠からがれき道、砂利道、本気のオフロードまで、ドライブモードをすべて試す機会に恵まれた。はっきり言ってSUVとしても超本格派である。それでいて同じ車で砂埃舞うサーキットだって楽しめた。タイヤを換えれば前述したように雪道だってこなす。その一方でベンテイガの本質は、実にベントレーらしい“グランドツーリングカー”であることだ、とも思う。
貴族がドーバー海峡を渡り、ヨーロッパ大陸(=コンチネンタル)の各所を目指すための車。その最新版がベンテイガというわけで、なるほどベントレーの新たなカオであることは間違いないのだが、そうなると常に最新モードを追いかけたいという人ならいざ知らず、そもそも背の低いモデルでいいのだ! とかたくなに思っている筆者を、SUVでオールマイティだから、と説得できるはずもない。
SUVを選ぶことが“自然”で“前提”であるという人には、オンオフともに高水準のパフォーマンスを見せるベンテイガV8はオススメなのだけれど、そうでない筆者(だからこんな連載を始めたわけだけれど)には、だったらコンチネンタルGTでいいじゃないか、ということになってしまう。否、同じ理由でベンテイガでもいいのだけれど、オフロードさえ捨てればクーペかセダンでいいではないか。コンチネンタルGTやフライングスパーもまた大変魅力的なモデルなのだから!
オフロードへは行かない派の筆者には、実にもったいない、宝の持ち腐れ車というわけだった。
▲ブライトリングの時計がダッシュボードに設置されている
▲トリムパネルには、本物のウッドパネルが使用されている(写真の車はユーカリの木を使用)
自動車評論家
西川淳
大学で機械工学を学んだ後、リクルートに入社。カーセンサー関東版副編集長を経てフリーランスへ。現在は京都を本拠に、車趣味を追求し続ける自動車評論家。カーセンサーEDGEにも多くの寄稿がある。
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