今となっては「小型車並みの車幅」でしかない964型ポルシェ911のすすめ。なお、相場は絶賛高騰中
2019/12/01
▲新車だった頃は「決して大柄ではないけど、特に小さくもない車」というイメージがあった空冷エンジン時代のポルシェ 911。でもその全幅は今となっては小型車並みというか、場合によっては小型車より断然スリムだったりします。で、スリムゆえに運転が楽しい! ということなんですが、ネックとなるのは「相変わらず中古車相場がバカみたいに高い」ということいわゆる車好きの不満の8割は「964」に乗り替えれば解消する?
2019年11月20日発売のカーセンサー2020年1月号では、「ぶつけそう、擦りそう…という不安にサヨナラ 小さくすれば8割解決!」と題した特集を展開している。
近年、車のサイズがどんどん大きくなっているという事実を背景に、主に運転がさほど得意ではない人々に向けて「でも“小さめな車”を選べば問題はおおむね解決しますよね?」という旨を提案している特集だ。
そしてそれは、「どちらかといえば運転が得意な人=車好き」に対しても刺さる話なのではないかと考えている。
受動安全性などの致し方ない理由から、ひたすら大ぶりになってきた昨今の車。それに対して「大きくて重くて、なんかつまんないよね」等の文句をつけることも多い、いわゆる車好き。
かく言う筆者もそのひとりではあるのだが、その寸法がまだ小ぶりだった頃の車=中古車に目を向けてみれば、車好き各位が現在抱いている不満の、それこそ8割は「解決!」となる可能性だって大いにあるはずなのだ。
例えばの話、「キューロクヨン」ことポルシェ 911のタイプ964である。
▲第1世代の通称「ナロー」、そして第2世代の通称「ビッグバンパー」に続いて1989年に登場し、1993年まで販売されたポルシェ 911 タイプ964。現行型から見ると5世代前の911で、リアに搭載されるエンジンは空冷方式の3.6L水平対向6気筒助手席乗員との距離は軽自動車並み!(←やや大げさ)
前述した本誌特集の素案をカーセンサー西村編集長から発売前にお聞きした際、筆者は下記のとおり進言した。
「編集長閣下! そういった特集内容であるならば、ぜひポルシェ 911のタイプ964も取り上げることを不肖わたくし、ここに具申させていただきます!」
なぜならば、964型のポルシェ 911は「今となってはきわめて小さな車」だからである。
具体的には、その全幅はわずか1660mm。この数値は、ちびっこCARであるフォルクスワーゲン up! とほぼ同じだ。まあ正確に言うなら964の方が10mm幅広なわけだが、「ま、だいたい同じようなもの」とは言えるはず。
ちなみに現行992型ポルシェ 911カレラの全幅は1852mm。これはLサイズミニバンであるトヨタ アルファードの全幅とおおむね同じである。
そして964型ポルシェ 911の全長は4245mm。これは現行型フォルクスワーゲン ゴルフよりもちょい短く、トヨタ 86とだいたい同じというニュアンス。なお、やたら大きくなった現行912型ポルシェ 911と比べるなら、964型は「30cm近く短い!」ということになる。
筆者が今から10年ほど前に964型ポルシェ 911を購入したきっかけも、その「小ささ」だった。より具体的には「あまりにも車幅が狭いことに驚き、そして感銘を受けたから」である。
約10年前。とある雑誌の撮影用に専門店からお借りした赤い911カレラ2を、筆者は撮影スタジオまで自走にて運んだ。964型のポルシェ 911を運転するのは初めてではなかったが、かなり久しぶりだった。
そして久しぶりの964型で感じたのは、助手席に座っていた当時の同僚Aくんとの距離があまりにも近いことだった。「……軽自動車?」と思ったぐらいだ。
「Aくんとの距離が近いこと」自体は特に嬉しくなかった筆者だったが、「これがAくんではなく素敵な異性であったなら……」とは正直思った。
また異性うんぬんはさておき、このきわめてコンパクトで、それでいてまずまずハイパワーなエンジンを搭載している名車を普段づかいできたらどれだけ幸せだろう……と夢想した筆者はその雑誌の発売後、ひとりの一般客として、まさに撮影に使わせてもらった個体を購入した。
▲筆者が約10年前に購入した91年式911カレラ2と同型・同色車の広報用画像。91年式というのはいわゆる前期型で、92年式以降の後期型とはホイールとドアラーの形状などが異なる車両価格600万円であっても買いたい名車だが
筆者が個人的に購入した全幅1660mmの赤い964型ポルシェ 911は、夢想したとおりの素晴らしい車だった。「小柄だがゴツい骨格と筋肉を有している、ボクシング スーパーフェザー級(体重57.153~58.967kg)の名チャンピオンみたい」というのが、964型ポルシェ 911という車の真実に近いと筆者は思っている。
ハイテクデバイスのハの字もない車だったが、「小ぶりながらガッチリしている」というだけで、車というのはここまで素晴らしくなるのか……と常に感嘆していた。
そんな素晴らしい車で素晴らしい数年間を過ごした筆者は、964型ポルシェ 911の魅力をより多くの人と共有したいと考え、前述のとおりカーセンサー編集長に進言をした。
だが進言は受け入れられなかった。
「や、キューロクヨンは本誌の特集用にはちょっとマニアックすぎますね~」というのが却下の理由だ。
考えてみればそのとおりである。プリウスやらN-WGNやらが中心となる特集にいきなり古いポルシェ 911が出てきても、ライト層な読者さんはとまどうだけだろう。西村編集長の判断は正しい。
だが同時に編集長閣下は「本誌じゃなくてカーセンサーnetの方だったらいいんじゃないですかね~?」ともおっしゃったため、今筆者はこうして964型ポルシェ 911の「小さいがゆえの魅力」について書いている。
だがそれも、もしかしたらイマイチなのかもしれない。
なぜならば、964型ポルシェ 911の中古車相場はあまりにも高すぎるからだ。
▲世界的なセミクラシックカーブームの影響で、数年前にドカンと相場が上がってしまった964型ポルシェ 911。写真の「911カブリオレ」もその例外ではなく、やっぱり高い筆者が購入した約10年前はそうでもなかった。具体的には、筆者が買ったのは走行10万kmをちょい超えた個体で、価格は約200万円。ポルシェ 911としてはまあまあ格安な個体だった。
しかしその後、空冷ポルシェ 911全体の相場が世界的にウルトラ高騰してしまった。そのため、現在はあれと同じような走行10万km超のティプトロニックであっても車両価格はおおむね450万円以上。もっと条件の良い5MTのカレラ2であれば「800万円は下らない」というのが現在の相場である。
「チャンスの女神には前髪しかない」というのはしばしば言われるフレーズだが、この記事も、10年前とは言わないが8年ぐらい前に書くべきだったのかもしれない。
とはいえ、「走行10万km超でもOKなら」「5MTじゃなくてティプトロニックでもいいなら」という条件付きであれば、昨今やや相場が落ち着いてきたポルシェ 911やイプ964の中古車は「車両価格600万円前後」でも探すことはできる。
まあそれでも昔と比べればかなり高いことに変わりはないため、万人に積極的にオススメしたいわけではない。
だが少なくとも、タイプ964という車は(しっかり整備さえしていれば)10万km超でも何ら問題はなく、また、ATであるティプトロニックであっても十分以上に楽しめる車だということだけは、まさに走行10万km超のティプトロ カレラ2の元オーナーとして自信をもって断言したい。
▼検索条件
ポルシェ 911(1988年10月~1991年10月生産モデル)×全国
自動車ライター
伊達軍曹
外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル XV。
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