西川淳の「SUV嫌いに効くクスリをください」 ボルボ XC90 リチャージの巻
2021/05/20
▲2020年の改良により、従来「ツインエンジン」と呼ばれていたプラグインハイブリッドモデルが、パワートレインの変更と併せ、「リチャージ」と呼ばれるようになった。グレード名はリチャージ プラグインハイブリッド T8 AWD インスクリプション「未来あるファミリーSUV」のフラッグシップ
その昔、ボルボといえばエステートだった。あの角張ったスタイルのステーションワゴンに乗っていることがステータスな時代もあったのだ。あまりに流行ったので、しまいにはスノッブな印象がついてしまったほど。
それがどうだ。20年が経ってボルボといえば今やSUVのブランドで、しかもそこには昔のエステートのときのような特別に気取ったイメージはない。上質なデイリーカー、幸せなファミリーカーという印象が強い。良いことじゃないか。ボルボは持ち前の安全神話はそのままに(実際に安全だ)、見事なイメチェンをはかってみせた。
攻勢は止まらない。先だってボルボは2030年までに完全EVメーカーになると宣言した。元々2019年からラインナップのフル電動化(ハイブリッド含む)に取り組み、2020年にはそれを達成して、2025年までには生産台数の半数をBEV(電気自動車)にすると発表していたから、いっそう野心的なロードマップを提示したというわけだ。併せてオンライン販売に注力していくとも言っている。論より証拠とばかり、主力で人気のXC40のBEVと、新型のBEVクロスオーバーモデルのC40も発表した。日本市場においても2025年までに販売の35%をBEVとしていきたいようだ。
ここにボルボは「安全で最先端のデザインコンシャスなブランド」という、およそすべての自動車メーカーが望むブランドイメージを手に入れたと言っていい。逆に言うと、年産70万台のメーカーとすれば、これ以外の生き残り戦略はなかったのかもしれない。
▲先進の安全・運転支援機能(インテリセーフ)を標準装備。なお、2020年の改良から180km/hの速度リミッターが採用されている未来あるファミリーSUV。先日、改めてXC40に乗る機会があった。そこは海の見える丘の住宅地の近くだったが、XC40をドライブしていると、その辺りに念願のテラス付き一軒家を手に入れた幸せな人に自分がなったような気分になったのだ。自分のライフスタイルとは無縁のほっこり感だった。
以来、もう一度、最新ラインナップのボルボを試してみようと思っていたら、金沢でXC90リチャージに試乗する機会を得た。
XC90はモダンボルボの先駆だ。デビューからはや6年が経って、来年には第3世代の次期型が登場する予定だから、改めて乗っておくいい機会だろう。果たしてボルボのフラッグシップSUVは“背高嫌い”の筆者に刺さったのか、どうか。
▲XC90はリチャージ(1139万円)以外に、48Vハイブリッドシステムを採用したB5(834万円)とB6(1004万円)をラインナップする
▲電子制御式エアサスペンションを標準装備、走行モードによって車高を調整し、停車時には荷物の積み降ろしや乗降を楽にしてくれる寄り道したくなるほどなPHEVのSUV
金沢駅前よりXC90リチャージのドライブがスタート。リチャージとはボルボの“充電可能なモデル”(=PHEVとBEV)に添えられるサブネーム。XC90に関していうと従来からあったPHEVのT8と変わりはない。ターボ&スーパーチャージャーの2L直4エンジンをフロントに搭載。前後にひとつずつ電気モーターも積んだ。リアの駆動はモーターのみなので、出力は高めの65kw(フロントは34kw)。リチウムイオンバッテリーは約12kWh。EVでの走行可能距離はカタログ値でおよそ40kmだから、リアルには30km前後だと思っておけばいい。
将来的にどのタイミングでBEVが主流になる(一般化する)かどうかは、国家の電力事情やバッテリーの進化、インフラの整備に依存する(実はもうひとつあって、それは強固な国家経済成長戦略なんだけど、それを言い出すと話が進まない)。それはともかく、日本人の生活車として今しばらくはPHEVが最もリーズナブルな選択であることは間違いない。すべてを電気で賄うとせず、市中移動はBEV、郊外から長距離はガソリン+モーターが合理的というものだろう。
▲充電口は左側のフロントフェンダーに。燃費は12.8km/L(WLTCモード)、充電電力使用時走行距離は40.6km
▲318ps/400N・mの2Lエンジンに前後モーターが組み合わせられる。ミッションは8速ATを採用したXC90リチャージは、静々と朝の金沢市内を走り出す。スーパーカー好きの筆者でさえ、今や街中では静かな車がいいと思うくらいだから、それほど社会のノイズに対する抑制要求は高くなっていると思った方がいい。
市中から抜け出すまではしっかりBEVだった。それでいい。北陸道に乗って京都を目指す。エンジンがかかっても、さほど煩くは感じない。BEV走行可能なモデルは遮音対策にも優れていることが多い。XC90のような大型SUVとなればなおさらだ。
高速クルージングを淡々とこなす。悪くない。否、むしろ腰下の落ち着きが感じられて、GT性能は上々だ。いい感じに乗れていたので、寄り道をしたくなった。
途中で高速を降り、越前海岸を目指す。大型SUVにはちょっと不利かもしれない峠越えと気持ちの良いシーサイドドライブを楽しもうという気になったのだ。
これが存外に良かった。峠道やカントリーロードでは十分に力強く、身のこなしも悪くない。バッテリー非搭載グレードよりも約200kg重いはずが、それをあまり感じさせない。むしろフロアの重さが車体の動きに落ち着きを与えている。大きさを持て余すということがなかった。
それが証拠に、敦賀から再び北陸道に乗って京都を目指すつもりが、そのまま下道で琵琶湖を目指し、鯖街道を伝って洛中へ向かう気になったのだ! スポーツカーでもあるまいし、SUV嫌いの筆者には珍しいことである。
こんなにもSUVらしいSUVを気に入ってしまうとは。食わず嫌いはいけないと居酒屋でこぼしている場合じゃなかった。大型SUVも悪くない。だんだんとそう思い始めてきたような気がする……。
▲ボルボの最新モデル共通のクリーンな仕立てのインテリア。クリスタル・シフトノブを採用、インパネまわりにはブラックかグレーのアッシュウッドパネルが用いられる
▲3列7人乗り仕様のみを用意。ファインナッパレザーを標準とし、フロントにはリラクゼーション機能などを備えたコンフォートシートを採用する
▲3列目シートは2分割、2列目は4:2:4の3分割となり、シートアレンジも多彩
自動車評論家
西川淳
大学で機械工学を学んだ後、リクルートに入社。カーセンサー関東版副編集長を経てフリーランスへ。現在は京都を本拠に、車趣味を追求し続ける自動車評論家。カーセンサーEDGEにも多くの寄稿がある。
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