【功労車のボヤき】至れり尽くせりのクーペカブリオレなのに、彼女に勝てなかった理由。フォルクスワーゲン イオス
2022/06/25
▲2006年に登場したフォルクスワーゲンの4シーターオープン、イオスが今回の主人公です
――君には“車の声”が聞こえるか? 中古車販売店で次のオーナーをじっと待ち続けている車の声が。
誕生秘話、武勇伝、自慢、愚痴、妬み……。
耳をすませば聞こえてくる中古車たちのボヤきをお届けするカーセンサーEDGE.netのオリジナル企画。今回は、特殊なルーフ機構をもつの4シーターオープンのフォルクスワーゲン イオスが物申す!!
ひと味違う、華麗なクーペカブリオレ
アタシの名は、EOS。
失礼ね、カメラじゃないわよ。アタシはフォルクスワーゲン家のイオス。
由緒正しき一族の長~い歴史をふり返れば、ほんの一瞬ではあったけど、それでも華を飾ったのよ。生真面目な一族の歴史に、お洒落でスマートで、熱い華をね。
アタシのボディスタイルは、電動でオープンになるハードルーフを採用した4シーターのカブリオレ、いわゆるクーペカブリオレ。
デビューした2006年当時は、プジョー家の206CCとか、ボルボ家のC70カブリオレとか、世界的にこのスタイルが大人気だったわ。

▲プジョー 206CC(写真上)とボルボ C70カブリオレ(写真下)だけど、流行をそのまま追いかけたりしないのが、わが一族の生真面目なところで、アタシには他のクーペカブリオレとはひと味違った、独創的なチャームポイントがあったの。
それまでのク―ペカブリオレのハードルーフは、3分割されてトランクルームに収まる仕組みが主流だったんだけど、アタシのハードルーフは、なんと世界初の5分割!
ルーフを開けたときのアタシの立ち姿が華麗に見えた秘密は、そこにあったのよ。

独創的な5分割ハードルーフの秘密
3分割と5分割で、どう違うのかって?
5分割の方が、ルーフはよりきめ細かく滑らかに開くの。つまり、セクシーってわけ。
もちろん、5分割方式のメリットは色気だけじゃないわ。ルーフを細かく折りたたんで格納できるから、ルーフの全長を大きくすることが可能になったの。

ルーフの全長が伸びると、どんなメリットがあるのかというと……。
ルーフが伸びればボディのAピラーを短くすることができるから、3分割方式のクーペカブリオレよりも頭上に余裕が生まれるわけ。

そのおかげで、オープンカーらしいエレガントなフォルムを実現できたの。もちろん見上げる空だって、まるで軒下の露天風呂みたいな他のクーペカブリオレよりも広いわよ。
ルーフの自慢なら、もっとあるわ。
ハードルーフは5分割になるだけじゃなくて、そこに大きなグラストップが組み込まれているの。もちろん、そのグラストップ部分だけをチルトアップしたり、スライドさせて開けることもできるわ。

さらに開放感をお望みなら、わずか25秒でフルオープン……。どう、サービス満点でしょ?
なんだか、ルーフの話しばっかりになっちゃったわね。
一族の中でも、非の打ち所がないアタシ
ルーフしか取り柄がないのかって?
そ、そんなことは……ないわ。
アタシの顔つきは、同じ一族のゴルフⅤに似てるって言われるけど、じつはベースとなったのはパサートなの。ま、パサート兄さんもゴルフⅤと共通する部分が多いんだけどね。
▲こちらは2006年から2010年に生産されたパサートホイールベースはゴルフⅤと同じだけど、トレッドはパサートと同じ。全長はゴルフⅤより少し長くて、ようするにゴルフとパサートの間に位置するニューモデルであり、一族初のクーペカブリオレでもあるってわけ。
さらにはアタシ、エレガントさが売りのお嬢さんと思われがちだけど、じつは走りだって熱いのよ。
エンジンは、ゴルフR32譲りの3.2L(250ps!)を搭載した「V6」と、ゴルフGTIと同じ2.0Lターボ(200ps!)を積んだ「2.0T」の2種類。そして、トランスミッションが伝家の宝刀DSGときたら、どう?

▲2.0Lターボエンジン(写真上)とV6 3.2Lエンジン(写真下)しかも、そんな熱い走りを、オープンでもクローズドでも楽しめちゃうのよ。
スマートで、セクシーで、ユニークで、しかも情熱的。名車揃いの一族の中でも、非の打ち所がないはずのアタシ。
あぁ、それなのに……。
至れり尽くせりなのに、ただひとつ欠けていたもの
至れり尽くせりのアタシなのに、日本での販売はデビューからわずか3年後、2009年に終了しちゃったの。
理由は、いろいろあったと思うわ。500万円という新車価格も強気すぎたかもしれない。だけど、アタシにはわかってる。
アタシが短命に終わってしまった、本当の理由……。
フォルクスワーゲン家の中で、アタシの個性は際立っていたわ。だけど強力なライバルがいたのよ、同じ一族の中に。
その名は、ニュービートルカブリオレ。
▲2003年から2010年に生産されたニュービートルカブリオレアタシと彼女の間に共通点はほとんどないわ。同じオープンカーとはいえ、あちらは昔ながらの幌タイプ、こちらは世界初の5分割ハードルーフ。
走りはモッサリしてるし、顔つきにしてもフォルムにしても、アタシに比べたらスマートとは言い難いはずのニュービートルカブリオレ。
だけど、彼女は当時も今も大人気。なぜなら、彼女には“物語”があったから。一族の祖である、あのビートルの生まれ変わりである、という物語……。
その物語が、彼女の走りも、顔つきも、フォルムも、背中に背負った不格好な幌も、ぜ~んぶチャームポイントに変えてしまったのよ。至れり尽くせりのはずアタシに、ただひとつ欠けていたもの、それは物語だったのね。
だけど、アタシの物語はこれから始まるのよ。
わずか3年間しかこの国に存在しなかった、だからこそ今となっては貴重な、そして今なお独創的でエレガントなフォルクスワーゲンのクーペカブリオレに乗る、という物語……。
それはお洒落な物語? それとも熱い物語?
その物語を、これから道に描くのは……アナタよ。

▼検索条件
フォルクスワーゲン イオス(初代)×全国
ライター
夢野忠則
自他ともに認める車馬鹿であり、「座右の銘は、夢のタダ乗り」と語る謎のエッセイスト兼自動車ロマン文筆家。 現在の愛車は2008年式トヨタ プロボックスのGT仕様と、数台の国産ヴィンテージバイク(自転車)。
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