西川淳の「SUV嫌いに効くクスリをください」 メルセデス・ベンツ EQE SUVの巻
2023/10/15
▲メルセデスの電気自動車「EQ」シリーズに登場したミドルサイズSUVの「EQE SUV」。広い室内空間、都市部でも便利な取り回しの良さ、長い航続距離と使い勝手の良いBEVだBEVシリーズ「EQ」のベストバイはSUV嫌いに効くのか?
実をいうとちょっと惹かれている。セダンのEQSに始まりEQEを経て、SUV版のEQSとEQEのテストも終えた今、まずは電動の専用プラットフォームをもつEQシリーズに食指が動いているのだ。で、実を言うとSとEの実利的な差はほとんどない。極論をすると、ステータス性以外のすべての面でEQEはEQSに等しいと言っても過言ではない。
このあたりの感覚はシャシーがエンジンに優っていた20世紀終盤のメルセデス・ベンツ Eクラス(W124型)とSクラス(W126型)との関係によく似ている。一般的にはEクラスですでに十二分で、それでも見栄があって人より上級のモデルが欲しい、もしくは社会的な立場から最上のモデルを買うことが必然という人だけがエクストラコストを払ってSクラスを買っていた。
ではEQEセダンとEQE SUVのどちらが良いかと問われると、いろいろ悩みつつも後者に軍配を上げる。内燃機関モデルの場合、例えばEクラスとGLEとでは形はもちろん乗り味にもかなりの違いがあった。ところが電動プラットフォームのEQではその乗り味にスタイルほどの差がない。だったら見晴らしがよく、室内空間も広々としたEQE SUVの方がいいに決まっている。筆者のSUV嫌いは、ひとえにセダンに対して物理的に劣るその乗り味にあったのだから。
▲アンダーボディをはじめ細部まで最適化が行われ、Cd値 0.25と優れた空力性能を備えている。ドアハンドルは格納式のシームレスドアハンドルを採用街中での乗り心地は上々だ。とろけるようだったEQS SUVの乗り味に感覚的にはかなり近い。21インチタイヤ&ホイールを履いていたので多少はコツコツ感じることもあったが、気になって仕方ないというほどではない。ゴー&ストップも頻繁な市街地走行でも2.6t以上という重量をまるで感じさせず、むしろGLAかと思えるほど軽快な走りを見せるあたり、さすがはBEVだ。
何より驚いたのは、小回り性だった。試乗の途中に狭く入り組んだ路地で方向転換を余儀なくされたのだが、これはちょっと厳しいなと思えるようなスペースでも楽々とお尻を入れていけた。否、かえって切れ込みすぎて障害物検知のアラームが鳴ってしまったほど。ミラーを見れば恐ろしいくらい(最大10度)にリアタイヤが曲がっている。とにかくホイールベース3m級のモデルとは思えないほどの扱いやすさだ。
高速道路も走ってみたが、すべてに感心せざるを得なかった。力強さと心地よさを高いレベルで両立した走りはEQS SUVに比べてなんら劣らない、どころかセダン系に勝るとも劣らない。首都高速などの継ぎ目を心地よくいなし、カーブにおいては些かの不満も感じさせず、後輪操舵によって直進安定性は極めて高い。もちろんスムーズな追い越し加速にもなんら不満はない。
道中に充電不安の尽きないBEVでありながら、従来のエンジン付きメルセデスと同じく、この先の長距離ドライブがきっと快適に違いない、という予感が生まれる。上級のEQシリーズすべてに共通する魅力だが、SUV モデルでは特にそれが強かった。そしてEQS SUVとEQE SUVとを比べると、本質のところでさほど差がない。となれば、やはりEQE SUVを選んで間違いないとなる。
▲スイッチ類を減らすことですっきりしたデザインとしたインテリア。浮遊汚染物質を除去してくれる大型HEPAフィルターを標準装備
▲車両や充電の設定をはじめ、様々な操作をセンターのタッチディスプレイに集約結局のところ論点はICEだからBEVだから、ではなくて、車そのものの魅力があるかどうか、だ。不安があったとしてそれを超える魅力を提案できているのかどうか、が真のポイントだろう。SUVというスタイルにしてもそうだ。背が低い高いではなかった。背が高くても欲しいと思わせてほしいのだ。
家のガレージには200Vも通っていないからBEVをもつ環境に今はない。また、インフラへの不安も大いにあると思っている。それでも欲しいと思えるような魅力的なBEVが、昨今ちらほらと現れ始めた。それこそクラシックカーやスーパーカーと同じ。一般的な乗用車に比べて所有するハードルは高いけれど、それを超える魅力が新しいBEVに出始めた。しかもSUVの形で。EQE SUVなどはその際たる例だ。
EQE SUVを乗り終えてひとつの結論に達した。メルセデス・ベンツという乗用車ブランドには今後BEVのラインナップだけで十分かもしれない、と。
日本で最も売れている輸入車ブランド、とはいえ販売台数はせいぜい年間5万台レベル。しかもプレミアムセグメントで、たとえその全量が強制的にBEVになったからと言って社会的に大きな問題になるとは思えない。もとよりエンジンの存在にその魅力を求めるようなブランドでもない。であれば、トータルで見た性能や機能がその時代において最も秀逸で“ベンツらしい”モデルを選んだ方がいい。それが今、ICEモデルではなく、BEVのEQシリーズだということ。エンジンが魅力のひとつであったBMWやフェラーリが全面的にBEVになる、なんて話は受け入れられなくても、ベンツなら……、AMGさえ残してくれれば!
そんなメルセデス・ベンツでさえも、予定どおり2030年にすべてBEVにするのは難しいとトップが漏らし始めた。要するにそんな期限を供給元はもちろん、国や地域の代表が決めて強制する方がおかしいというだけのこと。メーカーはその時代において自ら最高だと考える“ブランド・オリエンテッド”でかつ“ユーザー・オリエンテッド”な車を作ればいい。選択するのはあくまでもユーザーだ。特にメルセデスのようなプレミアム以上のブランドにとってはそうだろう。
ガレージに200Vを引っ張り込めたならなぁ……。あ、EQE SUVは大きすぎて入らない。いずれにしても、残念!
▲超音波センサーやカメラ、レーダーなどを裏側に備えたブラックパネルが備わる
▲後輪が最大10度可動するリア・アクスルステアリングを標準装備。これにより最小回転半径はコンパクトカー並みの4.8mとなる
▲EQE 350 4MATIC SUVには一体型形状のスポーツシートを標準装備
▲後席は40:20:40の分割可倒式を採用
▲ラゲージ容量は通常で520L、後席を倒せば最大1675Lまで拡大する
自動車評論家
西川淳
大学で機械工学を学んだ後、リクルートに入社。カーセンサー関東版副編集長を経てフリーランスへ。現在は京都を本拠に、車趣味を追求し続ける自動車評論家。カーセンサーEDGEにも多くの寄稿がある。
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