HARU CORPORATION▲カーセンサーnetでもたびたび見かける600万円台のアストンマーティンは買って大丈夫なのか? そこでアストンマーティンの販売を数多く手がけてきたHARU CORPORATIONの藤﨑晴史さんに聞く、600万円台の物件の真実とは

扱われ方とメンテナンスの内容次第

2025年9月27日発売のカーセンサーEDGE 11月号では「支払総額600万円前後で探せる“人生一度は乗っておくべきクルマ”」を、様々な角度から紹介する特集を展開した。そこに登場したモデルは主にポルシェの各モデルやアルピーヌなどであったわけだが、例えば「600万円台で買えるアストンマーティン DB5」はどうなのだろうか?

映画『007シリーズ』の劇中で主人公ジェームズ・ボンドが乗る車として描かれることも多いアストンマーティンは、もちろん新車で買うとなると2000万円超級あるいは3000万円超級の車であり、中古車を狙うにしても、基本的には1000万円または2000万円オーバーの世界になる。
 

アストンマーティン DB5▲映画「007シリーズ」で主人公、ジェームズ・ボンドの愛車としても有名なDB5。1963年に登場、ボディはイタリアのカロッツェリアであるトゥーリングが仕立てている

▼検索条件

アストンマーティン

だがそれはあくまでも「基本的には」であって、実際には総額600万円前後で購入できるアストンマーティンも、数十台レベルで流通している。そんな総額600万円前後のアストンマーティンを「一度は乗っておくべき車」として購入してみれば、我が人生はかなり素晴らしいものへと変わるのではないか。

というような淡い期待を抱きながら、埼玉県富士見市のアストンマーティン専門店『HARU CORPORATION(ハル・コーポレーション)』を訪ね、店主の藤﨑晴史さんに尋ねてみると、返ってきた答えは「微妙」としか言いようのないものであった。

「……総額600万円前後のアストンマーティンは買っても大丈夫なのか? というのは難しいご質問であり、お答えしづらいご質問でもあるのですが、基本的には『扱われ方とメンテナンスの内容次第』ということになるでしょう」

藤﨑さんは、アストンマーティンの輸入元だったアトランティックカーズで約20年にわたりキャリアを積み、2021年、自身が代表を務めるアストンマーティン専門店『HARU CORPORATION』を立ち上げた人物だ。
 

HARU CORPORATION▲果たして600万円台のアストンマーティンは現実的なのか? ハル・コーポレーションの藤崎晴史さんは「アストンマーティンは扱い方、乗り方次第」と強く訴える

“正しい扱い方”なら10万kmでも乗り続けられる

「例えば、こちらの2011年式ラピード タッチトロニック2の支払総額は598.3万円で、アストンマーティンの中古車としては非常に手頃な価格の物件です。

しかしこれは、今から14年前に私が新車としてお客さまにお納めした個体であり、そのお客さまには、私がお願いしたとおりの扱い方を継続していただいておりました。だからこそこの価格であっても、何の問題もなくお使いいただくことができます。

しかし……、もしもお願いしたとおりの扱い方をしなかったとしたら、残念ながらたちどころに不調をきたしてしまうのが、アストンマーティンという車なのです」

アストンマーティンの「正しい扱い方」の詳細は、車両を購入してくれたお客さんにだけ藤﨑さんが伝授している企業秘密とのことだが、超基本的な部分としては「とにかく丁寧に扱う」「ひんぱんにエンジンのON/OFFをしない(一度エンジンをかけたら必ず、それなりの時間は走らせる)」というようなことであるらしい。

「そういった『秘伝の扱い方』と『手間とコストと経験値を十分に投入したメンテナンス』さえ実行してあげれば、アストンマーティンという車は7万kmでも8万kmでも、それこそ10万kmでも、ごく普通に乗り続けることができるものです。しかしそうでない場合には、たとえ高年式かつ低走行な個体であったとしても簡単に不調をきたしてしまうのが、残念ながらアストンマーティンの現実なのです」

今回取材した2011年式ラピード タッチトロニック2は、前述したとおり「秘伝の扱い方」が14年にわたって継続された個体であり、なおかつHARU CORPORATIONへ入庫した後には「手間とコストと経験値を十分に投入したメンテナンス」も施された。

しかしながら、日本におけるアストンマーティンは「走行7.5万km」という数字だけで敬遠されてしまう場合がほとんどであるため、藤﨑さんとしても泣く思いで「総額598.3万円」という激安プライスに設定したとのこと。

それゆえ、この個体に関してのみ述べるのであれば「総額600万円前後であってもぜんぜん大丈夫ですよ」と言えるわけだが、このケースを一般化するのは難しいし、するべきでもないだろう。そして総額600万円前後で購入可能なアストンマーティンが一般論として微妙であるだけでなく、仮に1000万円、2000万円の物件であったとしても、「その信頼性は扱い方とメンテナンスの内容による」という話になってしまうのが、アストンマーティンの中古車の微妙なところだ。

「そのため――これは大変申し上げにくいことなのですが、もしもアストンマーティンに本気でご興味があるのであれば『とにかく一度ご相談いただきたい』というのが、ビジネスのことは抜きにしたとしても、私が心から申し上げたいことなのです。アストンマーティンという素晴らしい車を本当の意味でご堪能いただけるよう、誠心誠意“本当のこと”をお伝えさせていただきます」

何はともあれ格安の物件を検討の際は、早まって購入を急ぐのではなくアストンマーティンを知り尽くした販売店に相談してみるのがよいだろう。
 

▼検索条件

アストンマーティン ラピード
アストンマーティン DB9▲特集に登場した、6L V12エンジンを搭載するアストンマーティン DB9。2003年にDB7の後継モデルとして登場、2度の大幅な改良を経て2016年まで販売された

▼検索条件

アストンマーティン DB9
アストンマーティン V8ヴァンテージ ▲2005年に発表された、コンパクトな2シーターボディに4.3L V8エンジンを搭載するV8ヴァンテージ

▼検索条件

アストンマーティン V8ヴァンテージ
文/伊達軍曹、写真/郡大二郎、アストンマーティン・ラゴンダ
伊達軍曹

自動車ライター

伊達軍曹

外資系消費財メーカー勤務を経て出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル レヴォーグ STIスポーツR EX Black Interior Selection。