パンダ

【連載:どんなクルマと、どんな時間を。】
車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?

生粋のオフローダー好きが惚れ込んだ遊べるイタリアンコンパクト

イタルデザイン在籍時のジョルジェット・ジウジアーロが手がけ、1980年から2003年までの長きにわたって生産された初代フィアット パンダ。イタリアを代表する名車であることは疑いようもないが、同時にあまりポジティブではな“イタ車”のイメージを象徴する存在だったりもする。

アライさんは、そんな手のかかりそうなパンダ、しかもカリカリにチューンされた個体を普段の足として使っている。
 

パンダ

年式は不明だが、アライさんいわく、ポーランドで製造されていた1999~2000年頃のモデルだろうとのこと。

並行輸入された900㏄のOHVエンジンを搭載する少し珍しい仕様。もちろんMTだ。ちなみに日本で流通している初代パンダはキャンバストップ、いわゆる「Wサンルーフ」仕様が多いが、こちらはより簡素なスチールルーフ。

撮影日は結構な雨が降り続いていたが、アライさんはこんな天候の日でもとくに気にすることなく愛車を走らせる。保管も野外の駐車場にボディカバーをかけているだけとのことだが、意外にも目立つようなサビは見当たらず。モデル末期ではサビ対策も進んでいたということだろうか。
 

パンダ

若い頃から車好きだったアライさんがこのパンダを購入したのはもう16~17年前のこと。それまではトヨタ ランドクルーザー70で、クロカンの競技に参加したり不整地を好んで走るオフローダーだった。

しかし、ディーゼル規制の強化によってランクルを手放さざるを得なくなり、「代わりに何か楽しい車を」とあれこれ乗った末に行き着いたのがこのパンダだった。合理性を突き詰めたデザインという点では、たしかにランクル70と共通する部分もある気がする。

購入後、ラリーや草レースを熱心にやっていたショップに出入りするようになり、少しずつモディファイを加えながら、サーキット走行やヒルクライムレースに参加するようになったという。 エンジンこそノーマルだが、後席が撤去され、フルバケにロールバー、吸排気系のチューンに強化クラッチ、足回りもそっくり交換されている。
 

パンダ
パンダ

いちおうクーラーは付いているものの、効きは頼りなく、夏場はなかなか過酷なドライビングを強いられるとか。 ここまでイジっても元のかわいらしさが損なわれず、車好きが集まる、神奈川県三浦のおしゃれカフェ「Revival CAFE」の駐車場に止めても違和感がないのは、やはりパンダのキャラクターがあってこそだ。
 

パンダ

「魅力はやっぱり運転の楽しさです。高性能な車に『乗せられる』のとは対照的な、非力な車をドライバーの頑張りで気持ちよく走らせるという楽しさ。トラブル? それはしょっちゅうあります」

イベントやレースに参加する際は現地まで自走で行き、自走で帰る。それ自体がちょっとしたアドベンチャーの趣とアライさんは言う。遠征先の長野でオルタネーターが急に故障してレッカーで帰ってきたこともあるとか。

「まあでも故障しても応急処置で何とか走れることも多いですから。そこは壊れたら自分では対処できない現代の車よりも優れた部分ですよね。あと長く付き合っているとすぐに交換の必要がある部品と、そうでない部品というのも分かってくるので、そこまで大変ではないです。部品自体の価格も安いですし。ただし、並行車なので乗りっぱなしというわけにはいかず、信頼できるショップとの繋がりがなければ維持は難しいですね」
 

パンダ▲今まで参加してきたレースのステッカーをボディに。ラフに貼っただけでもおしゃれに様になるのがパンダのいいところ

すでに走行距離は20万kmを超えているが調子は抜群。その気になれば100km以上も出せるため、現代の交通事情でも大きな不便を感じることはないという。ただし、高速走行中の車内は会話が難しいレベルの騒音なので、妻もあまり乗りたがらないとアライさんは苦笑する。

「今の車に慣れている人がこのパンダに乗ったら、ブレーキを強めに踏まないといけないことに、きっとびっくりすると思います。でも僕にとってはそこが良いところなんですよ。追突しないように車間距離を広くとったりとか、性能が低いなりに考えて運転するようになるじゃないですか。だんだん体も動かなくなってくる年齢なので、認知症の予防にもなるんじゃないかな(笑)」

もう体が完全にパンダに馴染んでしまい、現代の速い車に乗っても「怖いだけで楽しくない」と笑うアライさん。車が動かなくなるまで乗り続けるつもりだという。
 

パンダ▲車好き仲間とお気に入りのカフェ「Revival CAFE」で集まって車談義に花を咲かせるのが最近の楽しみのひとつ

今回アライさんの取材をしたカフェ「Revival CAFE」は車好きの交流地点にもなっている。2025年12月6日には、カフェの7周年を記念した「三浦半島に集まる名車たち」と題した車好きに向けたイベントを開催予定。

昭和100年となる今年ならではの多くの名車が集まるそう。興味のある人は足を運んでみては?
 

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フィアット パンダ(初代)
文/佐藤旅宇、写真/江藤大作

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アライさんのマイカーレビュー

フィアット パンダ(初代)

●マイカーの好きなところ/運転していて楽しい! ボケ予防にもなるし(笑)
●マイカーの愛すべきダメなところ/たまにすねて動かなくなるところ
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/しっかり手入れして車と向き合える人
 

佐藤旅宇

インタビュアー

佐藤旅宇

オートバイ専門誌や自転車専門誌の編集記者を経て2010年よりフリーライターとして独立。様々なジャンルの広告&メディアで節操なく活動中。現在の愛車はボルボ C30と日産ラルゴ・ハイウェイスターの他、バイク2台とたくさんの自転車。この2年で5台の車を購入する中古車マニア。