ドア開閉音からも分かる卓越したビルドクオリティ、空冷時代だからこそ生きたポルシェの技術力
2021/06/08

車には、スペック表やカタログでは推し量れない評価ポイントがある。それは、フォルムを形成するデザインだったり、外からは見えない機械的部分であったり、車自体のクオリティだったりする。
そういった車の細部に宿る、“こだわり”にフォーカスするカーセンサーEDGEの企画。
今回は、機械好きにはたまらない「ポルシェの精密なビルドクオリティ」に注目したい。
“こだわり”に共感できたならば、所有の満足度はより高いものとなるはずだ。
感動すら覚える品質の高さは、ポルシェ氏によって生まれた
1964年に登場した初代から1993年に登場した993までの、いわゆる空冷911はドアを閉めると剛性の高さを感じさせる「カキンッ!」という独特な音がする。その感触は金庫を開け閉めしたような堅牢さがあり、その作りに感動した空冷ポルシェオーナーも多いはずだ。
ポルシェはなぜそんな作りなのか、そしてなぜそれが空冷911の時代だけに限定されるのだろうか。
一般的にドイツ車、特にポルシェは昔からボディの建て付け品質が素晴らしい。筆者も以前1961年式の356と1967年式の911を所有していたが、ドアの開閉フィーリングには毎回感心させられていて「なぜなんだろう?」とずっと考えていた。
その答えはボディとドアの立て付けの「精度の高さ」によるもの。個人的にはそう思っている。空冷911の組み付け精度が高い理由を、ガラスのサッシ(窓枠)のせいだと考えている人もいるようだが、356のカブリオレやコンバーチブルDといったサッシレスドアでもドアは素晴らしい精度で閉まるのだから、サッシの有無は関係ないはずだ。
歴史をさかのぼると、フェルディナント・ポルシェ氏が設計したフォルクスワーゲンの国民車、通称「ビートル」も作りが極めて重厚だった。プロトタイプはポルシェ設計事務所の納屋のような工場で作られ、その後もダイムラーベンツ社にて累計30台ほどがポルシェ社のエンジニアの手によって作られている。
そのビートルでも実証された「組み立て精度の高さ」を生み出せた理由が、オーストリアのシュタイア社とのつながりである。シュタイア社は1920年代にフェルディナント・ポルシェ氏が技術顧問として赴いた会社である。1920年代にビルトイン式のモノコックボディをポルシェ氏が設計し直して、シュタイア社の精度の高いシャシーとボディを生産していた歴史があるのだ。
ちなみに、ポルシェの1号モデルである356は、オーストリアのグミュントという小さな村で累計50台が生産されたが、このときもポルシェ氏を慕ってシュタイア社から技術者がはせ参じたという。まさに技術屋集団というわけだ。

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ポルシェ 356 × 全国

▼検索条件
ポルシェ 911 964型 × 全国そしてシュタイア社は、戦後ダイムラーベンツの管理下で車の製造に携わり、今はマグナシュタイアーという社名になっている。身近なところでは、トヨタのGRスープラがマグナシュタイアー製のモデルである。
ここで思い出してほしいのが、ゲレンデヴァーゲン。今のメルセデス・ベンツ Gクラスだ。シュタイア社が作ったこの車のドアも金庫のような精度で、911と同じようなフィーリングになっている。明らかに他のメルセデス・ベンツとは一線を画しているといえる。空冷911を知るGクラスを所有者なら、「911みたいなドアの開閉音だな」と思うのではないだろうか。
シュアタイア社の素晴らしい立て付け精度の基準は、ポルシェ氏がいた時代から脈々と受け継がれているのだと思っている。もし機会があったら、ゲレンデワーゲンや空冷911のドア開閉フィーリングをぜひ試してほしい。両車の共通点を必ず見いだせるだろう。
そして最後に、空冷911でしかこの開閉音が体感できない理由はやはり生産台数のせいだと考えている。1948年以降、356が金属ボディになったあとは、ロイターという会社がボディの生産を行っていた。ロイター社はシュツットガルトにあるポルシェ設計事務所の斜向かいにあった会社で、組み立て精度の高いボディメーカーだった(現在はポルシェ傘下のボディ製造部門になっている)。
そして、精度の高さを持続するには生産台数を絞るしかない。大量生産では精度の高さは維持できないのだ。しかも、空冷から水冷に切り替わった1990年代、ポルシェは財政難だったため生産方式を変更して、効率よく生産しなければならない状態だったのだ。
「金庫のようなドアの開閉フィーリング」が空冷の993までだったのは、そういう理由もあったからなんだと個人的には思っている。

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