西川淳の「SUV嫌いに効くクスリをください」 トヨタ ランドクルーザー300の巻
カテゴリー: 特選車
タグ: トヨタ / SUV / 4WD / ランドクルーザー300 / EDGEが効いている / 西川淳 / c!
2022/01/12
▲14年ぶりとなるフルモデルチェンジで300シリーズに進化。本質である信頼性、耐久性、悪路走破性を進化させつつ、世界中のどんな道でも運転しやすく、疲にくい走りを実現しているというすさまじい人気ぶり、街中でもダントツの注目度だが……
新型ランドクルーザー300の人気ぶりがすさまじい。目標5000台/年のところへいきなり2万台の注文が入った、などというのはまだ可愛いもので、先日は業者オークションでGRスポーツに1600万円以上の入札が入ったり、2000万円以上のプライスタグを掲げて販売する店が現れたりと、そのあまりの狂乱ぶりに、いったい誰がそこまでして欲しがっているのだろうと考え込んだくらいだ。どうやら円安効果もあって海外バイヤーが買いあさろうとしているらしい。右ハンドルを採用する国のお金持ちが増えてきたということだ。
プレスカーを借り出すと、盗難防止グッズまで付いてきた。一般のユーザーと違って、我々はプレスカーを出先の見知らぬ駐車場に止めたり、ホテルや旅館に預けたりすることも多いから、“念のため”ということなのだろうけれど、30年間のギョーカイ人生で初めての経験だ。そんなに盗まれているのなら、もっと盗みづらい車にして欲しいものだと思ってしまう。これもまたランクル300の人気ぶりを表すエピソードのひとつだろう。
▲ダカールラリー参戦ドライバーからのフィードバックをGRスポーツ(写真)に活用。エクステリアだけでなく、電子制御でスタビライザー効果を変化させるE-KDSSなどの専用装備が備わるガソリンとディーゼル、それぞれを試乗し、後者のGRスポーツではいつものように京都までロングドライブを試みたわけだけれど、とにかくいろんな場所で声をかけられたことにも驚いた。特に若い男性に人気で、高速道路のパーキングやガソリンスタンド、コンビニエンスストアなどでは必ずと言っていいほど、「これって新型のランクルですよね。かっこいい」と笑顔で話しかけられる。ランクルがこんなにもフレンドリーな車だったとは! 京都でも、これが大仰な外国ブランドのSUVなら眉のひとつもひそめられるところだが、ランクルは違った。みなさん、「これが噂の新型か」という感じで興味津々に眺めていかれる。オーナーでもないのに誇らしい気分になったから、実際にオーナーとなればもっと気分の良いことだろう!
ある意味、スーパーカー。そういう意味では目立ちたがり屋の筆者には素晴らしいチョイス。なんといっても一般人気指数ではロールスロイス カリナンに勝るとも劣らない。気軽に声をかけてもらえるフレンドリーさを加味すれば、ダントツの一番人気である。
▲悪路でも車両姿勢を把握しやすいよう、インパネ上部を水平基調とした。メーター系は6針式、スイッチ類は機能ごとに集約配置するなど、オフロード走行時の機能性を追求
▲ガソリンモデルは5人乗りと7人乗り、ディーゼルモデルは5人乗りをラインナップ。GRスポーツには専用内装色(ブラック、ブラック&ダークレッド)も用意されるもっとも、その乗り味には不満もあった。特に非GR。旧型に比べて随分と良くなったとはいうものの、街乗りのオンロードでやはり、フレームボディ巨大クロカンに特有な心地悪さを払拭することはできなかった。乗り出した瞬間は「お、良くなった」と思わせたものの、50km/h前後でバタつく印象があり、さらに微妙な振動が身体に伝わってくる。これがくせもので気になりだすともうどうしようもない。
GRも同じで、街中でバタついたうえに、70km/hあたりでもう一度バタバタとする。タイヤのタッパをしっかり感じさせるドライブフィールもまた昔ながらのランクルだ。
それでも、GRなら高速道路では多少なりともまともに走ってくれる。進路変更で下半身がだらしなくなることもない。一回あたりの走行距離が延びるという人はGRの方がいいと思う。
もうひとつ、不満といえば新型ディーゼルV6にしてもガソリンV6にしても、ランクル用としては申し分ないのかもしれないけれど、世間の環境性能要求はもちろん、最新の内燃機関水準にも届いていない気がしてならなかった。このあたり、メインマーケットがどちらかというと日本を含め先進国ではないことが影響しているのだろう。なんといってもランクルは“世界のサバイバルカー”なのだから。
日本では「使えないこともない」というレベルである。それもまたレアさに拍車をかける。憧れだけが先に立つ。旧型よりも全体的に洗練された走りを見せるとはいえ、それはあくまでもランクル界での会話だ。世界を見渡せば、レンジローバーもランドローバー ディフェンダーも、そしてなんならキャデラック エスカレードも、もう1ランク上の乗り味を手に入れている。否、だからこそランクルの存在感が際立つとも言えるのだけれども、それでは議論は永遠に噛み合わない。
ということはつまり、SUV嫌いにつけるクスリにはならない、ということになる。もっとも世界で活躍するランクルを、SUV呼ばわりすることさえ、そもそも気が引けるのだけれども。
▲歴代モデル同様にキャビンを後ろ寄りに配置するキャビンバックワードプロポーションを採用。オフロード走行時の機能性を重視し、ラジエターグリルやヘッドライトを高い位置に、バンパー下部は障害物をいなす造形とされた
▲ラダーフレームも刷新。軽量化はもちろん、剛性を旧型比+20%向上している
自動車評論家
西川淳
大学で機械工学を学んだ後、リクルートに入社。カーセンサー関東版副編集長を経てフリーランスへ。現在は京都を本拠に、車趣味を追求し続ける自動車評論家。カーセンサーEDGEにも多くの寄稿がある。
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