家族の過去と未来を、優しく包むガレージハウス【EDGE HOUSE】
2021/06/29

受け継いだポルシェを、大切にしまいこむ場所
夫婦2人と愛犬1匹が暮らすガレージハウスを求めて、施主は建築家の中村高淑さんを訪れた。ハウスメーカーの住宅展示場ではなく、ガレージハウスを取り上げた雑誌を見て、直接中村さんに設計を依頼したほどだから、施主はそれなりに車へのこだわりが強い。
ただし、その時の愛車はポルシェ 911ではなかった。ほどなくして「土地を見つけた」と施主から連絡を受けた中村さん。その場所を一緒に訪れた際、中村さんは懐かしそうに目の前を見上げた。道路を挟んだ向かいは、学生時代に訪れたことのある、有名建築物の集合住宅だったからだ。その入り口に植えられていた桜の木は、あの時よりたくましく成長していた。
前後して施主のお兄様が亡くなられ、997型のポルシェ 911が遺された。兄が大切にしていた911を知らない人に渡すのは忍びないと、施主が譲り受け、これから建てるガレージハウスに収めることにした。1階部分の正面には、お揃いにした玄関ドアとガレージの折戸が並んでいる。
扉を開けると、玄関ホールとガレージの間に壁や柱がない空間が広がり、911のドアを思い切り開けられる。雨の日や通勤にこそ乗らないが、普段からなるべく運転するようにしてコンディションを保つよう心がけている。





911が収まるガレージの奥には個室がある。そこは、時折訪れる母に泊まってもらう部屋だ。将来、母に住んでもらうことができるようにと、施主は中村さんに注文を出していた。
だから、911の水平対向6気筒のサウンドが響かないよう、ガレージとの間の壁は天井内部までしっかり防音対策を、そして断熱も施している。将来、母が車椅子を利用するようなことになっても、個室から直接外へ出られるように大きな引き違い窓が備えられた。
さらに、浴室が必要になった場合には、W.I.C.(ウォークインクローゼット)を水まわりにリフォームできるなど工夫されている。兄の911と母の個室を包むガレージハウスに、中村さんは「桜の借景」を加えた。2階リビングの床から吹き抜けの天井まで大きく開けられた、東から南側にかけての窓は、向かいの名建築と桜を一枚の写真に見立てて掲げる大きな額縁となった。
名建築のリビングの窓は、このガレージハウスに向いていないため、誰とも目を合わさずにこの風景を楽しめる。さらに南側の先、隣家の屋根の上に見える小学校にも桜並木がある。
春になれば額縁の中の桜は風に揺れ、夏は青空と緑葉と名建築のコントラスト、秋には紅葉……、リビングの"写真"は季節ごとの表情を見せてくれる。家族の現在、そして過去や未来も優しく包み込んでいるガレージハウス。それは地名に「桜」がつく場所にある。





■所在地:神奈川県横浜市
■主要用途:専用住宅
■構造:木造
■敷地面積:77.47 ㎡
■建築面積:38.50 ㎡
■延床面積:75.76 ㎡
■設計・監理:中村高淑(unit-H 中村高淑建築設計事務所)
■TEL:045-532-4934
※カーセンサーEDGE 2021年8月号(2021年6月24日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています
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