アストンマーティン ヴァンキッシュ▲往年のフラッグシップモデルの名称が復活。アストンマーティンが 発表当初、「111年の歴史の中で最もパワフルなフラッグシップモデル」とうたったラグジュアリーGT。最高速度は同社量産モデル最速の345km/hとされる

エンジンと足回り、車体の大型化には理由がある。そしてベース価格は未公表!?

新型ヴァンキッシュの魅力は何か。スタイリング? もちろん! V12エンジン? そりゃ当然! ステータス? なんせベース価格は未公表!

けれども東京と京都の往復ドライブで、ヴァンキッシュの真に感心すべき魅力の源泉はシャシー&サスペンションシステムとメカニズムレイアウトであると再確認できた。

デザイン部門のボス、マレク・ライヒマンは、新型ヴァンキッシュのスタイルを見れば過去のモデルとは一線を画するパフォーマンスを有することは一目瞭然だ、と言っていた。その意味するところはレイアウトの進化によって生じたスタイリングの変化である。

よりワイドに、そして長くなった。新型ヴァンキッシュを見て誰もが最初に感じることがそれだろう。端的に言って、かなり大きくなった。もちろん大型化そのものは決して好ましい事態ではない。けれどもヴァンキッシュの新たなレイアウトには、そのネガを打ち消すに十分な理由があった。

それはV12エンジンをフロントミッドに収めること。そして新たなアクティブサスペンションシステムを十分に機能させること。この2点だ。

昔ほどではないにしろ、5.2L V12ツインターボはそれなりにかさばる。このエンジンをフロントアクスルより後方のより低い位置に置いた。ノーズが劇的に長くなって、スタンスがワイドに見える最大の理由である。こうすることで重量バランスは動的な理想に近づく。そのうえで新たなダンパーシステム(ビルシュタインDTX)を含む最新のアシを効果的に配した。
 

アストンマーティン ヴァンキッシュ▲フロントミッドには最高出力835ps/最大トルク1000N・mを発生する新開発の5.2L V12ツインターボエンジンを搭載

モードによって劇的に変わる乗り味

効果は劇的だ。ドライブモードをツアラーに入れて走り出せば、街中から高速道路まで十二分にコンフォートで、しかも車との一体感がある。このモードではまだそれなりのボディサイズ感を意識する場面もあったが、それでも車体の端や隅までドライバーの神経が通う感覚があって扱いやすい。“大きいなぁ”と思った第一印象などあっという間に消え失せた。つまりはアストンマーティンの伝統である“よくできたグランドツーリングカー”に徹する。

高速クルージング時のV12はほとんど昼寝状態だ。けれどもその寝息は精密な機械感に満ちていて、耳と足裏を心地よく刺激する。右足をふみこめば瞬時に目を覚まし、劇的な加速とサウンドで思いどおりの流れを作る。1000N・mの加速はまさに驚愕のひと言。顎が外れそうだ。そしてその一瞬の咆哮はドライバーを勇気づけ、長丁場のドライブをいっそうイージーにした。

京都までの450kmなど、あっという間に感じる楽しいドライブで、もっと先まで行きたくなった。時間があれば淡路島から四国を巡って、とも思ったがスケジュールの都合でやむなく淡路島で折り返す。
 

アストンマーティン ヴァンキッシュ▲リアの足回りには専用キャリブレーションが施されたビルシュタインDTXダンパーを装着。ルーフ全長におよぶパノラミック・ガラスルーフも備わった

驚くのはこれから。京都に戻っていつものホームワインディングコースを走ってみた。ドライブモードはスポーツ+。車が変わった! グランドツアラーからリアルスポーツへ劇的な変身だ。いきなりヴァンテージに生まれ変わったようにボディが引き締まり、すべてが凝縮する。車体の隅々までドライバーと筋肉でつながっているような錯覚さえ覚える。1000N・mを解放すれば、今どき珍しいくらいに荒々しい。まるで車がドライバーの右足の動きを予期しているかのように加速する(実際、予期している)。その瞬間がとてもスリリングだ。けれども不安はまるでない。シャシー制御が素晴らしいからだ。否、制動パフォーマンスがもっとすごいからだ。減速が楽しくなるスポーツカーなど、そう多くはない。

実は街中をスポーツモードで走ってみても、それはそれで気持ちが良かった。確かに乗り味はソリッドになるが、嫌味な硬さではない。むしろ車体との一体感がより強まるぶん、乗りやすいと思う人もいるだろう。モードによって車の乗り味が劇的に変わる、ということは、もうほとんど違う車に乗るような感覚だから、好みのモードを見つけたらそれに固定して乗ればいい。ヴァンテージのようなスポーツカー感覚で乗っていて、途中で本物のグランドツアラーに変身できるなんて、新型ヴァンキッシュ、最高だ。

価格は未公表である。アストンマーティンは至宝のV12エンジンをヴァンキッシュのみに使い、その生産台数は年間1000台規模に抑えるという。
 

アストンマーティン ヴァンキッシュ▲グリル開口部を大きくするなど空力や冷却性能も高められている
アストンマーティン ヴァンキッシュ▲特徴的なデイタイムランニングライトと一体のマトリックスLEDヘッドライトが備わる、フロントデザインも一新された
アストンマーティン ヴァンキッシュ▲軽量な21インチ鍛造アロイホイールには専用設計のピレリ P-Zeroタイヤを装着する
アストンマーティン ヴァンキッシュ▲7つのLEDブレードで構成されるテールライトの間には、浮かんで見えるようなデザインの“シールド”を採用
アストンマーティン ヴァンキッシュ▲TFT液晶のメーターパネルやタッチスクリーンが備わるインテリアは、レザーなどを用いたラグジュアリーな仕立て
アストンマーティン ヴァンキッシュ▲センターのシフト回りにスイッチ類を集約させている
文/西川淳 写真/タナカヒデヒロ、アストンマーティン・ラゴンダ

自動車評論家

西川淳

大学で機械工学を学んだ後、リクルートに入社。カーセンサー関東版副編集長を経てフリーランスへ。現在は京都を本拠に、車趣味を追求し続ける自動車評論家。カーセンサーEDGEにも多くの寄稿がある。

V12エンジン搭載の先代フラッグシップ、アストンマーティン DBSスーパーレッジェーラの中古車市場は?

アストンマーティン DBSスーパーレッジェーラ

DB11をベースに70kg以上の軽量化と725ps/900N・mを発揮する5.2L V12ツインターボを搭載したFRのフラッグシップGT。DBSの後継モデルとして2018年に登場、トレッド拡大やより大きくなったフロントグリルなどスタイリングは迫力を増している。

2025年5月下旬時点で、中古車市場には30台程度が流通、支払総額の価格帯は2300万~6300万円となる。オープンのヴォランテも5台程度が流通、こちらは2900万~6700万円。シリーズ最後を飾ったDBS770 アルティメットも数台ながら流通している。
 

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アストンマーティン DBSスーパーレッジェーラ

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アストンマーティン DBSスーパーレッジェーラヴォランテ
文/編集部、写真/アストンマーティン・ラゴンダ