ホンダ シビックタイプRのコックピットは、オンとオフを切り替える大切な場所
2020/12/13

車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?
納車まで1年。待つのはとても楽しい時間だった
「シビックが7年ぶりに、日本市場に復活」
こんな話が流れたのは、2017年6月のことだった。ハッチバックとセダンだけでなく、そこには“タイプR”の文字も。
このニュースに興奮したスポーツカーファンは多かった。今回お会いした平中昌典さん(47歳)もその一人だ。
運転免許を取得する前からスポーツカーが好きだった。10代でアイルトン・セナやアラン・プロストが活躍したホンダのF1第2期に夢中になり、スポーツカー好きに拍車がかかる。
「ホンダのエンジンは、すごい!」
F1を見ながらそう思っていたが、20歳で初めて手に入れた愛車は、S13型シルビアだった。
「実は親戚が日産で働いていたので、ホンダを選べなかったんですよ」と平中さんは当時を振り返る。

シルビアの後は、同じ日産のサニーを買い、次に選んだのは全日本GT選手権で活躍した80系スープラRZ。タイトなコックピットとボリューム感のあるボディに魅せられた。
スープラを手放した後はしばらくスポーツカーから離れるが、心のどこかでスポーツカー、そしてホンダへの憧れを抱いていたのだろう。34歳で仲のいい中古車販売店から「いい車が入ったんだよ」と言われて店に遊びに行き、目の前にあるアコードクーペ 2.2 SiRに衝撃を覚えたという。
「流れるようなクーペのスタイルが、黒いボディとマッチしていてすごくカッコよく見えました。試乗させてもらったらVTECの加速感に完全にヤラレましたね」
このアコードを迷いなく購入し、その後もホンダに乗り続けている平中さんだ。シビックタイプRが発売されるというニュースに食いつかないわけがない。平中さんはWEBサイトでこのニュースを目にすると、次の仕事の休みを待ってディーラーに足を運んだ。
「写真を初めて見たとき、まずガンダムみたいな顔にグッときました。昔からロボットアニメが好きなんですよ(笑)。あとは“ニュルブルクリンクFF市販車世界最速”の称号にも引かれましたね」

ところが平中さんがディーラーに行ったとき、すでに注文が殺到していて納車まで1年待ちと言われた。いくら好きな車とはいえ、1年も待つのはさすがに長すぎると感じそうなものだが、逆に納車を待つ時間が楽しくて仕方なかったそうだ。
「納車を待つワクワク感を長く味わえるといったら大げさですが、その時間はけっこう楽しんでいましたね。自宅の隣に電動シャッター付きのガレージを作ったりして、タイプRを迎える準備をしていました」

ところでタイプRといえば、1965年にF1で初優勝を成し遂げたRA272のカラーをイメージし、歴代タイプRがイメージカラーとして採用してきた“チャンピオンシップホワイト”が圧倒的な人気。現行型シビックタイプRの中古車を見ても、約6割がチャンピオンシップホワイトだ。
平中さんのタイプRはレーシングブルー・パール。なぜこの色を選んだのか。
「確かにチャンピオンシップホワイトはカッコいい。僕もホンダのWEBサイトにあるコンフィギュレーター(好みの色や装備を自分で選んでその写真を表示する機能)で、まずチャンピオンシップホワイトを選びましたから。でももともと青が好きだったこともあり、レーシングブルーも試しに選んでみたんです。そうしたら深みのある青が、タイプRにすごく似合っていたんです」
これまで青い車に乗ったことがなかったこともあって、最終的にレーシングブルー・パールに決めた。
モンスターマシンでも公道では安全運転。その理由は……
2018年7月3日、ついにタイプRが平中さんのもとにやってきた。それから2年。平中さんは愛車を主に通勤の足として使っている。
自宅から職場までは片道約30km。仕事は夜勤なので、夕方に家を出て明け方に帰ってくる。会社に向かう時間は渋滞に出くわすこともあるが、好きな車を運転しているから苦にならない。仕事が終わった時間は道が空いているので、タイプRを気持ちよく走らせることができる。

ひとつ問題があるとすれば、運転が楽しいからテンションが上がってしまい、家に帰ってきてもすぐ寝ようという気分にならないことと、平中さんは笑う。
「でもタイプRの走りがどれだけ楽しくても、僕は公道で絶対に飛ばしません。いかにも速そうなスタイルだから、この車が後ろにつくと前の人にプレッシャーを与えてしまうと思って。だから普段から車間距離もなるべく空けるように心がけています」
実は平中さんは、20代で父親を交通事故で亡くしている。それで車が嫌いになったり運転が怖くなったりすることはなかったが、どうすれば不幸な事故をなくすことができるかをずっと考えてきた。
そして平中さんは、“優しさの欠如”が事故につながる、という結論に達したという。
「車を運転する人が優しさをもつのは当たり前。そのうえで歩行者や自転車に乗る人も優しい気持ちになれば、お互いが譲り合うようになって事故は自然に減っていくのではないかと思って」
制限速度を守るのはもちろん、車間距離をしっかりと保って走るのも、平中さんの優しさの表れ。残念ながらタイプRではまだ実現できていないが、若い頃は愛車を思い切り走らせたいときはサーキットに行っていたそうだ。
そんな真面目で優しい平中さんの話を聞きながら、ふとこんなことが頭をよぎった。まだサーキットを走れていないとしたら、タイプRの性能をフルに引き出す機会はもてていないはず。それでもここまでタイプRを楽しめているのはなぜだろう。
「ひとつは限界領域じゃなくても、タイプRはワクワクするような走りを味わえること。もうひとつはコックピットで過ごす時間が、とても心地いいからです」

真っ赤なバケットシートが備わるタイプRのコックピットは、タイトな空間だ。それが非日常的で、オンとオフ、気持ちをスパッと切り替えることができるという。仕事に向かうときは「これから頑張るぞ!」、そして家に帰るときは「疲れたけれど運転を楽しもう」とスイッチが入る。タイプRのシートに座るのは、平中さんにとってとても大切な時間になった。
愛車と過ごすようになって2年。これまでプライベートの事情で、通勤以外ではなかなかドライブを楽しむことができなかった。しかしこれからは、その時間をもつことができるようになりそうだ。最初のドライブ先はどこになるのか。
「父の実家が山口県なので、せっかくだからタイプRで行きたいなと思っています」
平中さんが住む埼玉県から山口県までは、ざっと1000km。安全運転を常に心がけている平中さんのことだ。きっと途中で温泉などに立ち寄ったりしながら、のんびりとタイプRを走らせるはず。
真っ青なタイプRでやってきた息子を、お父さんはどう思うだろう。きっと人生を楽しんでいる様子を上から見て喜ぶに違いない。

平中昌典さんのマイカーレビュー
ホンダ シビックタイプR(現行型)
●購入金額/約500万円
●年間走行距離/約1万2000㎞
●マイカーの好きなところ/顔、性能、カラーリング
●マイカーの愛すべきダメなところ/でかい(笑)、小回りが利かない
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/ロボットアニメが好きな人、優しい人

自動車ライター
高橋満(BRIDGE MAN)
求人誌編集部、カーセンサー編集部を経てエディター/ライターとして1999年に独立。独立後は自動車の他、音楽、アウトドアなどをテーマに執筆。得意としているのは人物インタビュー。著名人から一般の方まで、心の中に深く潜り込んでその人自身も気づいていなかった本音を引き出すことを心がけている。愛車はフィアット500C by DIESEL
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