N-WGN

【連載:どんなクルマと、どんな時間を。】
車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?
 

かわいくないところがいい

埼玉県在住の高橋尚子さんは、つややかな真っ黒のN-WGN カスタムで現れた。選んだ際の話を聞くと、少し照れ笑いを浮かべながらのひとこと。

「この車、急いで決めたんです(笑)」
 

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就職が決まり、卒業を控えた春先。新しい1人暮らしの拠点から職場までは車が必須だった。免許は学生時代に合宿で取得済み。あとは、マイカーを手に入れるだけ。そこから納車までは、ほんの2~3ヵ月の出来事だった。

最初から軽自動車と決めてはいたが、意外にも条件は細かい。
 

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ボディカラーは黒一択。メーターはハンドルの正面にあるデザインのみを選び、インパネ中央配置の車は候補から外した。理由を聞くと、土木業を営む実家のシルバー車は汚れが目立ちやすく、また家の車で運転するときは、センターメーターで斜めになる視線が不便だったからだという。

車探しには、車好きで詳しい父が全面的に協力してくれた。走行距離10万km以下、修復歴なし、価格50万円前後、カーナビ付き。そんな条件で選び抜かれた候補を書き出し、プレゼンまでしてくれた。

かわいい系の車もあったが、高橋さんの好みは、シュッとしたものやカクカクしたデザイン。最終的に選んだのは、精悍な顔立ちのN-WGN カスタムだった。
 

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「仕事、頑張れよ」

父からの就職祝いとして贈られたこの車は、彼女にとって特別な存在になった。また、兄が納車祝いをしてくれるというので、ハンドルカバーをプレゼントしてもらったそう。

「なんでハンドルカバー?って聞かれるんですけど、もともと家の車に付いてたので、あるのが普通だと思ってたんです」
 

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車内は、紺色のリボンや薬玉などと落ち着いた雰囲気。折り紙で作られたくす玉は、とある故人が生前にたくさん作ったものをご家族からいただいたそう。

ハンドルに飾られているリボンは特に思い入れがあり、とてもお世話になった会社の社長が亡くなり、葬儀のときにもらったもの。毎日目に入る場所に置いて感謝の気持ちを忘れたくないんです、と語る。

高橋さんは葬祭関係の仕事に就いている。きっかけは、中学生のときに大好きだった曽祖母を見送った経験だ。人生の終わりに寄り添う職業があることを知り、そのとき支えてくれた葬儀屋の姿が心に残った。大学で就活を迎えたとき、その記憶が背中を押した。

「やっぱり“ありがとう”って言われると、大変でもやりがいがありますね」
 

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職場は現場ごとに場所が変わる。片道1時間半かかることもあり、車は欠かせない相棒だ。週5で運転するため、趣味としてのドライブはほとんどしない。

「唯一のドライブは大学の友人と秩父方面に行ったくらい。通勤がドライブみたいなものだから、休日はゲームしてひきこもってます」
 

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それでも、家族と過ごすアウトドアの時間は別だ。自分の車ではなく実家の車で出かけることが多いが、山登りやキャンプなどアクティブな一面もある。

富士山の麓・山中湖で自然を満喫したり、茨城の日本百低山を登ったり。最近はワカサギ釣りにもハマっている。立山連峰でキャンプをしたときは、3000m級の絶景を前に家族で万歳三唱し、すがすがしい気持ちになったという。

父のやさしい目配りと、自分の足として日々働く車。黒いN-WGN カスタムは、ただの移動手段ではない。

「私の生活の半分は、この車と一緒ですね。いや、もしかしたら相棒っていうより家族かもしれません」

その車内には、これまで出会った人たちへの感謝と、日々を前向きに走り抜ける覚悟が静かに宿っていた。
 

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ホンダ N-WGN(初代)
文/瀬イオナ 写真/小林司
N-WGN

高橋さんのマイカーレビュー

N-WGN(初代)

●購入価格/約60万円
●年間走行距離/約5000km
●マイカーの好きなところ/飽きのこないデザイン
●マイカーの愛すべきダメなところ/ちょっと塗装が剥げてしまっているところ
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/運転のしやすい軽自動車を探している人

瀬イオナ

自動車ジャーナリスト

瀬イオナ

車メディアの雑誌編集部員を経て、2024年にフリーランスとして独立。「走って書ける」自動車ジャーナリストを目指して修行しながら、若手ジャーナリストとして活動中。車業界に入ったきっかけは、某動画で中谷明彦師匠を見つけたこと。現在に至るまで「ドライビング」はもちろん「ジャーナリスト」の心得など業界におけるすべてを教わりながら日々鍛錬中である。趣味はドライブ、レーシングカート、スキー、サウナ。