“ミニカ”

【連載:どんなクルマと、どんな時間を。】
車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?
 

22台もの愛車遍歴を重ねた末、たどり着いたミニカ

福岡市と佐賀市を結ぶ国道263号を福岡側から走り、佐賀県との県境を過ぎた辺りは脊振(せふり)山地の真っただ中。三瀬峠の旧道沿いに、「三瀬カフェCARBAY(かぁべぇ)」がある。

つづら折りに連続する急カーブと急勾配を避けるために、三瀬トンネルが掘られ、九州最大規模のループ橋も築かれたという難所である。

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「旧道にはうちのお店1件しかないんです。車やバイクが好きな人にとっては、走りがいのある旧道の方が好まれますから」と、カフェオーナーの坂口さんは穏やかに話す。
 

“ミニカ”

初めての愛車として三菱 初代ミラージュに乗って以来、これまで国内外の大小様々な、そして多くの旧車に乗ってきた坂口さん。

イギリス車が好きで、クラシックミニだけで5台、ロータス エランや、ミニのおばあちゃん的存在のオースチン A30にも乗った。

中でも40歳で手に入れて20年近く乗ったケーターハム スーパーセブンは思い入れも強く、このカフェを開いたきっかけもスーパーセブンだったという。

「スーパーセブンに乗る仲間たちで集まれる場所を作ろうと、7年前に脱サラしてここを開店しました。でも4年ほど前、店の運転資金のために手放してしまいました。ロータス顔にしたケーターハムだったんですけどね」

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そのスーパーセブンはこの店のお客さんに譲ったそうで、たまに乗って来てくれるから今も元気な元愛車の姿を見ることができる。

「新しいオーナーさんがよくしてくれているから、車にとっては幸せですよね。でも、来るたびに仕様が変わってたりしてね。嫁に出した娘が変わっていく姿を見るような、あるいは付き合っていた彼女が次の男と一緒のところを見るような、複雑な気持ちになります」

カフェの敷地内には赤いラリーゲートが建ち、傍らにはラリー仕様の赤い三菱 ミニカが止められている。

現在坂口さんの足として活躍している愛車であり、この店の看板車だ。

“ミニカ”

このミニカは「ダンガン」というグレードで、バブル景気絶頂期の1989年にデビューした、世界初の5バルブ・インタークーラー付きターボ搭載DOHCエンジンを搭載したハイパフォーマンスな軽自動車。

550cc3気筒エンジンでデビューしたが、坂口さんのミニカ ダンガンは1995年式なので660ccの直列4気筒エンジンを搭載している。

“ミニカ”

「5バルブの4気筒ですから20バルブ。お金をかけて作った車ですよね。レッドゾーンの9000回転までよく回ります。車重は700kgと軽いですし、よく走りますよ。燃費もよくて、17km/L、クーラーを使っても15km/L走ってくれるので助かってます」

しかも、フルタイム四駆の「660 ダンガン-4 4WD」なのだという。

「この峠は、冬に雪がすごく積もるので、四駆じゃないと来れないんです。冬になる前にスタッドレスに履き替えて乗ってます。それからこの車のいいところは、出先で止まったことがないんですよ。ほとんど故障がないのはさすがの国産車です」
 

“ミニカ”

ただしよい子のみなさん、旧車乗りの“故障しない”という言葉はそのまま信じてはいけません。“出先で”と限定する単語も聞き逃してはいけません。

「そうですね……故障といえば、ハブベアリングとか中古車にありがちなものくらいです。ドライブシャフトの不調で、店に来る途中で調子悪くなって、ギリギリ店に着いたところで動かなくなったことはありましたが、ちゃんとここまで走り切ってくれたんだから立派です。その日はレッカーしてもらって、無事タクシーで帰りました。ドライブシャフトは修理で済んだのでパーツ代もかからず、安くて助かります」

このミニカで、福岡市内の自宅から毎日30~40分のドライブを楽しみながらカフェまで通勤し、仕入れの買い出しもこなしている。
 

“ミニカ”

「人とかぶらない車がいいなと思って選んだんですが、目立ちすぎちゃってすぐお客さんに見つかっちゃうのが玉にキズです。悪い運転はできません」
 

“ミニカ”
“ミニカ”

「でも、本当にすべて気に入っています。宝くじでも当たればオープンカー、できればモーガン スリーホイーラーが欲しいなんて思いますけど、もし他の車を手に入れることがあっても、このミニカは乗り続けたいですね」

店内の壁には、訪れたお客さんたちの愛車の写真がびっしりと貼られ、ここが車好き、バイク好きが集う場所であることがよくわかる。
 

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そして、子供向けメニューや、重機のラジコンで遊べる砂場コーナーを用意するなど、家族連れにも楽しんでもらえるようになっている。
 

“ミニカ”

「スーパーセブンに乗っていた頃は、この駐車場にスーパーセブンがずらっと並んだりもしていましたけど、今はもっと幅広い車やバイクに来ていただくようになって、いろんな方とお話しするのが楽しいです。もしかすると、スーパーセブンが店の前に置いてあったときは入りにくい印象があったのかな? 気取らず、かわいいミニカのおかげかもしれないですね」

小さな看板車が、坂口さんのカフェの間口を広げてくれたようだ。
 

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三菱 ミニカ(7代目)

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三菱 ミニカ(全世代)
文/竹井あきら 写真/北嶋幸作
※記事内の情報は2025年8月20日現在のものです。
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坂口さんのマイカーレビュー

三菱 ミニカ(7代目)

●モデル/1995年式 660 ダンガン-4 4WD
●購入価格/約40万円
●年間走行距離/購入時 約8万2000km、現在12万2000km(1年約1万km)
●マイカーの好きなところ/出先で止まったことがない、維持費が安くて助かる
●マイカーの愛すべきダメなところ/ちょっと目立ちすぎるので、悪い運転ができない
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/車自体がほぼないので、人に薦める車ではないが、人とかぶらない車がいい人

竹井あきら

ライター

竹井あきら

自動車専門誌『NAVI』編集記者を経て独立。雑誌や広告などの編集・執筆・企画を手がける。プジョー 306カブリオレを手放してからしばらく車を所有していなかったが、2021年春にプジョー 208 スタイルのMTを購入。近年は1馬力(乗馬)にも夢中。