幼い頃からの夢をかなえた若きカーデザイナーの選択は、ポルシェ ケイマン
2019/12/10

車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんな車と、どんな時間を?
きっかけは母のフィアット プント
父親が車好きだったから自分も車好きになった、という話はよく聞く。が、母親の影響で人生そのものが車色に染まった、というケースは珍しい。
ポルシェ ケイマンに乗る松下伸彦さん(28歳)へのインタビューは、そんな興味深い話から始まった。
「僕が小3の時、母が運転免許を取って車を買ったんです。鮮やかなオレンジ色のフィアット プント。その印象が強烈でした。母と一緒にディーラーに行ったら真っ赤なアルファロメオが並んでいて、世界にはこんなにカッコいい車があるのかって」
その衝撃的な出合いによって、それまでお父さんのカローラしか知らなかった松下少年の目からウロコが落ちた。
▲こちらがフィアット プント。松下さんがほれたオレンジ色ではないが、国産車にはないデザイン性と雰囲気はお分かりいただけるだろうもともと絵を描くのが好きだった彼は……
「大人になったら、絶対にカーデザイナーになる!」
と、心に誓う。幼き松下少年、10歳の時のことである。
「それからは車に夢中でした。カーデザイナーというより、ホントは車そのものになりたかったくらい(笑)」
その後、松下さんは大阪芸術大学でプロダクトデザインを学び、卒業後は見事に某国産自動車メーカーに就職、デザイン部に配属され本当にカーデザイナーとなった。
夢をかなえた松下さんは、初めての給料を頭金にして青いフィアット パンダを購入。さらに、お母さんのプントと同じ色の20年落ちのフィアット バルケッタを買い足して、イタリア車にどっぷりの生活が始まった。
幼い頃に出合ったプントは、十数年を経て青いパンダとオレンジ色のバルケッタに姿を変えた。母のセンスが、一人の若きカーデザイナーを誕生させたのだった。
クラシックカーも好き、それでもつねに新しいものに目を向けていたい
そして今、松下さんはポルシェ ケイマンに乗っている。
「イタ車はもちろん大好きですが、実際にカーデザイナーになってみたら、単なるデザインだけでなく工業製品としての車の魅力にも興味をもつようになったんです」
そんな時に出張で訪れたドイツのポルシェミュージアムで、ポルシェの車作りに対する哲学に触れる。
車人生、第二章の開幕である。
「帰国して、まず911とボクスターのレンタカーを借りて走ってみました。ストイックなポルシェならではのプロダクト力にやられましたね。いかにもキッチリしていて、僕が知るイタリア車とは対極でした(笑)」
松下青年の目から、2枚目のウロコが落ちた。
「911はさすがに敷居が高いし、オープンカーはバルケッタで満喫していましたから、ミッドシップで走りを楽しめるMTのケイマンに的を絞ってカーセンサーで探しました」
2台のイタリア車を下取りに出して手に入れた、ドイツのスポーツカーの精度の高さ、硬質でありながら軽快な走りは期待どおりのものだった。
今のところ、ケイマン以上に欲しいと感じる車は思い浮かばない。
▲2007年式の初代ケイマンは2.7Lの水平対向6気筒エンジン(245ps)をミッドシップに搭載。サーキットから峠道まで、軽快に刺激的に走り回ることができる
▲ドライバーズシートに座ると色使いや操作性など、イタリア車とドイツ車との違いがよくわかる。どちらも“らしく”て好きだし、自分のデザインの刺激にもなる。ポルシェと出合ってから、自分の好みや装いがよりシックな大人びたものへと変化したそうだただ、もう1台、小粋なイタリア車があったらいいなと夢みたりしている。シルバーのケイマンのとなりが似合うのは、青かな、オレンジかな。
「もちろんクラシックカーも大好きですし、学ぶべきところもたくさんあります。ただ、懐古主義にはなりたくない」
加えて、決意も込めるかのように彼はこういった。
「カーデザイナーとしてもそうですが、つねに新しいものに目を向けていたいですね」
▲所々に施したカスタマイズは「5年若返らせる」がテーマ。このフォグランプベゼルは黒にペイントし、現行ポルシェのようなモダンで引き締まった雰囲気を醸し出している
▲人も車も、年齢は後ろ姿にでる。このテールランプも、さりげなく最新のLEDに交換することで、10年以上も前のモデルとは感じさせない
▲ナビ・カーオーディオもAppleのCarPlay(カープレイ)対応のものに替えている
▲アンチエイジングの工夫は車内・外のみならず、アクセサリーにまで。鍵はヘッドを後期型のものに交換してある
▲とはいえ、型落ち中古車らしいトラブルもそれなりに。ある日、ルームミラーをのぞくと、なぜかリアウインドウが見えない……。天井が垂れ下がってきていたのだ。現在は、ホチキスで応急処置(笑)夢を次の世代に伝えていきたい
学生時代、まわりからは趣味と仕事は一緒にしない方がいい、とアドバイスされた。そのとき、悩みながらも松下さんは思った。
「確かにそうかもしれない。いや、だけど……カーデザイナーが、車馬鹿じゃなくてどうする!」
車が自分を成長させてくれている気がする。フィアットが人生を楽しむことを教えてくれたし、今はポルシェが似合う男になりたくて、仕事をもっと頑張ろうと思う。
今の時代、夢を語れるプロダクトは車くらいしかないのではないか。だからこそ、その夢を次の世代にも伝えていきたい、と松下さんは目を輝かせる。
イタリア車を愛しドイツ車を駆るカーデザイナーが、きっと夢あふれる国産車を作り出してくれるに違いない。
▲松下さんは車好きな若い仲間が集う「平成カーラバーズ」の中心メンバーとしても活動中。メーカーとユーザーの目線、その両方を大事にしている
松下伸彦さんのマイカーレビュー
ポルシェ ケイマン(初代)
●購入金額/約300万円
●年間走行距離/約1万㎞
●購入する際に比較した車/アバルト 595、日産 フェアレディZ
●マイカーの好きなところ/お尻、自分で交換した社外LEDテール
●マイカーの愛すべきダメなところ/最近天井が落ちました。ホチキスで留めています(笑)
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/少しだけ自分の人生をステップアップしたいと思っているアラサー社会人!

インタビュアー
夢野忠則
自他ともに認める車馬鹿であり、「座右の銘は、夢のタダ乗り」と語る謎のエッセイスト兼自動車ロマン文筆家。愛車は1万円で買った90年式のフォルクスワーゲン ゴルフ2と、数台のビンテージバイク(自転車)。
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