トヨタ 86(初代)

【連載:どんなクルマと、どんな時間を。】
車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?

倹約生活も86のためと思えば我慢でした

勇樹さんと86との出合いはちょっと変わった形だった。

まだ小学生のときにお兄さんが勤める会社が、ある展示会に参加。そのブースに発売されたばかりの86(ZN6)が展示されているのを見て衝撃を受け、「大人になったら絶対にこの車に乗ろう!」と思ったという。
 

トヨタ 86(初代)

86がデビューした2012年といえば、まだ「若者の車離れ」という言葉が普通に使われていた時代。自動車に関心があるという割合が減り、運転免許保有人口も減少。子供たちも車に興味を持たなくなったといわれていた。
 

でもカーセンサーで取材をしていると、車で楽しそうに遊んでいる若者はたくさんいたし、モーターショーなどでは目をキラキラさせてショーカーを見つめる子供たちをよく見かけた。

勇樹さんも偶然出合った86に一目ぼれし、「いつか運転する!」という思いを抱き続け、ついに2年前、その夢をかなえた。恐らく「若者の車離れ」がいわれていた頃から、自分がときめく車に出合えたかが重要だったのだと思う。
 

トヨタ 86(初代)

「社会人になってからコツコツ貯金をして、2年前にようやく2017年式の後期型GTを一括払いで手に入れました。さすがに毎食カップラーメンで我慢……ということまではしませんでしたが、それに近いようなことはやっていたかもしれないです(笑)」

それにしてもだ。人は子どもの頃にいろいろな夢を持つものだが、ほとんどの場合は他のことに興味を持って、だんだんと夢を忘れてしまうもの。何がユーキさんをかき立てていたのだろう。

「やっぱり『頭文字D』や『MFゴースト』の影響が大きかったと思います。これらの作品に夢中になっていたので、大人になったら86に乗るという夢を忘れずにいられたので。免許取得後はカーセンサーに掲載される86をワクワクした気持ちで見ていました。良さそうな86が掲載されていたらお気に入り登録して時間があるときにもう一度見て、自分も頑張ってこれを手に入れるぞとモチベーションを高めていましたね」
 

トヨタ 86(初代)

そのときに考えていたのは、手に入れるならノーマルの86にしようということ。仕上げるのは前オーナーではなく自分。ただ、86の中古車はどこかしら手が加えられているものが多いので、気に入った中古車を探すのは大変だったという。

その分掲載されている中古車を1台ずつ丹念に見ていくのが楽しかった。

このとき、勇樹さんはまだ20代前半。周りの仲間は楽しそうに遊んでいた。その光景を見て自分も遊びたいと少なからず思ったはずだ。でも、夢を実現させるためにぐっと我慢して貯金していた。だからこそ、86を手に入れたときの喜びはとてつもなく大きかっただろう。
 

トヨタ 86(初代)

「目標にしていたお金がたまり、気になる中古車を見に行くときはドキドキでした。そして納車される車をお店に取りに行き、運転しながら帰ってくるときは、本当に手に入れることができたことが信じられなくて、『本当なのかな』と実感がわかずにいたのを覚えています」

でも、自分が86オーナーになったことは紛れもない現実。10年以上夢見ていた車を運転してみて、どんな気分だろう。

「手に入れてからもう2年以上たっていますが、今でも毎日運転するのが本当に楽しいです。特にFRならではのハンドリングがすごく気持ちいい。全然飽きることがないですね。仕事が終わった後はつい遠回りして家に帰ったりしています。たまに友人が乗っているFFの車に乗せてもらうこともあるのですが、FRとは全然動きが違いますね。僕はやっぱりFRの86が好きです」
 

トヨタ 86(初代)

勇樹さんは長野県在住。冬になると雪が降ることも多い。そんなときでもスタッドレスを履いた86で出かけているという。約2年で走行距離は4万5000kmに達した。この車と過ごす時間がいかに多いかがわかるだろう。

「正直、雪の中を運転するのは怖いですよ。すぐにお尻が横に出ちゃうので、事故を起こさないよう慎重に走らせています。僕にとって86を運転しているのは至福の時間。『好きな車は将来の楽しみとして取っておく』という人の話も聞きますが、僕は絶対に少しでも早く乗った方が良いと思います。だってその分長く楽しむことができるし、今じゃなきゃわからない感覚もたくさんあると思うので」
 

トヨタ 86(初代)

休日になると勇樹さんは碓氷峠などをドライブすることが多い。86で峠というとお尻を振りながらガンガン攻めるイメージもあるが、勇樹さんは安全運転で峠を流すのが気持ちいいという。

「ハイパワーのスポーツカーだとある程度限界に近づかないと楽しさを味わえないかもしれないですが、86は日常的な速度域でワクワクできるのがいいんですよ。それこそ通勤で街中を走らせているだけでも楽しいです」

ノーマルの86を体入れた勇樹さんは、少しずつ愛車をカスタムしていっている。最近だとTRDのエアロを装着した。変な言い方だが、TRDのエアロを付けるのであれば、はじめから装着された中古車を探してもよかったのではないか。

「もちろんお金のことだけを考えればその方が安上りですが、自分でやらないと愛着がわかないだろうと思って。自分が思い描いた姿に少しずつ変わっていく。その変化を見るのも思い出になると思うんですよね。昔の写真と今の姿を見比べると、少しずつ変わっているので、それを見て『この頃にはこんなことがあったな』なんて振り返ったりしています」
 

トヨタ 86(初代)

86という宝物を手に入れて、かけがえのない時間を過ごす。きっと86とは気持ちが通じ合い、これからも素敵な思い出を作っていけるはずだ。
 

文/高橋 満、写真/尾形和美
トヨタ 86(初代)

勇樹さんのマイカーレビュー

トヨタ 86(初代)

●購入金額/ 200万円
●年式/2017年 トヨタ 86(初代)
●年間走行距離/2万2500km
●マイカーの好きなところ/日常的な速度域でワクワクできるところ
●マイカーの愛すべきダメなところ/運転が楽しくて、気づいたらすぐにお腹(ガソリン)が減ってしまうところ
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/運転が好き、日常の運転を楽しくしたいと思う方

高橋満(たかはしみつる)

自動車ライター

高橋満(BRIDGE MAN)

求人誌編集部、カーセンサー編集部を経てエディター/ライターとして1999年に独立。独立後は自動車の他、音楽、アウトドアなどをテーマに執筆。得意としているのは人物インタビュー。著名人から一般の方まで、心の中に深く潜り込んでその人自身も気づいていなかった本音を引き出すことを心がけている。愛車はフィアット500C by DIESEL