【試乗】 新型 メルセデスAMG SL|軽快なスポーツカーに変貌を遂げた、伝統のロードスター
カテゴリー: AMGの試乗レポート
2022/12/21
▲7代目となる新型はメルセデスAMGの完全独自開発となり、よりスポーティなラグジュアリーロードスターへと進化。2+2シートレイアウトやソフトトップを採用する。まずはF1由来の電動ターボを備えた直4エンジンを搭載したSL43がラインナップされた“車好きに響く”SLをAMGが独自開発
SL。車好きにはとっても響くナマエ。歴史的名車といえば300SLガルウイング(W198型)にとどめを刺すし、そこまで頑張らなくても190SL(R121型)やパゴダ(W113型)ならリアリティある価格かつ申し分なく、そして今じゃR107型やR129型だって十分に、クラシックでかっこいい。その後のR230型もSL55 AMGはスーパーチャージャー付き500psオーバーで車好きは大いに沸き立ったものだった。ところが……。
雲行きが変わったのは、おそらくR230型(5代目)のフェイスリフト以降くらいだろうか。ちょうどその頃、AMGが悲願のオリジナルモデルであるSLSシリーズを完成させている。ガルウイングドアをもつ、言ってみれば300SLの再来というべきモデル。この時以来、SLはメルセデス乗用車ラインナップにおけるスポーツモデル最高峰では“なくなった”。
その後もAMG GTという同門の上級モデルが登場し、SLはあくまでも2番手。もちろんキャラクターはまるで違うものの、目立たない存在になってしまったことは確か。注目はどうしても派手なモデルの方に集まりがちだった。
▲先代のハードトップから電動ソフトップへと変更。ルーフ開閉時間は約15秒、60km/hまでなら走行中でも操作が可能7代目となった新型SLはもはや“メルセデス・ベンツ SL”ではないメルセデスAMGによる独自開発モデル。是非はともかく4シーターとなり、キャンバストップに先祖帰りも果たした。要するにSLは変わった。乗用車ラインナップの2番手として、AMGブランドオンリーとはいえ、実はより広範囲のユーザーを狙っているようにも見える。
ちなみに、SLといえば2シーターと思いがちだけれど、W113型には初期に3シーターがあったし(オプション設定)、R107型にはクローズドルーフの+2モデルSLCがあった。さらに、R129型でも欧州仕様に+2が用意されたこともある。
もとい、衝撃の7代目というべきか。広範囲のユーザー狙いを証明したのが日本導入モデルのSL43だ。63でも55でも53でもない。ましてや65や73でもない。43なのだ。つまり史上最強で最高の作品との呼び声も高い、AMGのM139エンジンを積んでいる。
けれども4気筒なのだ。190SLは4気筒だったなんてウンチクは聞きたくない。現代のSLイメージにはまるで似合わない。開けたときにかっこ悪いメタルトップをやめてかっこ良くてカラーコーデの楽しいソフトトップの復活は嬉しいし、+2も便利だから認めていいとしても、4発のSLだけはちょいと悲しい。もっとも本国には8気筒の55や63があるのだけれど!
▲ターボ軸をモーターが直接駆動させる、F1由来の電動ターボチャージャーを備えた2L 直4エンジンを搭載そんな複雑な思いで新型SLを借り出し、いつものように東京から京都までのドライブテストを試みた。
実物を見ても、まだ少しワダカマリがあった。どこか威厳に欠けている。GT風の顔立ちが無理やりの装いに見えて余計に悲しい。まとまりのいいスタイルもかえって小ぶりに見えてしまって迫力に欠ける。うーん、無条件にかっこいいSLが欲しい!
そんなふうにネガティブに入ってしまうと、インテリアもなんだかAクラスみたいでチープに思えてしまう。R129型だってセダンのベンツと変わりなかったと言われればそれまでだ。
▲可変ダンピングシステムを備えた新開発のAMG ライドコントロール サスペンションを備える
▲自動で5段階のポジションに変更されるリトラクタブルリアスポイラーを装備ところが、乗ってみればけっこうスポーティで驚いた。鼻先が軽いのは操るという意味では嬉しい点で、逆にいうと重厚なクルーザー感には欠けるけれど、それは55や63の領域ということだろう(だったら早く日本にも入れてほしいけれど!)。その昔、6気筒のSLがファン・トゥ・ドライブだったことを思い出す。
エンジンの力は十二分。パワースペック的にSL用としては少し物足りなく感じるかもしれないけれど、例のF1技術の電動ターボのおかげか、エンジンの反応も機敏でどこからでも力が出る感じ。なるほど、これも6気筒SLのダウンサイザーだと思えばいいのかしらん。
決定的に気になった点は、9速スピードシフトMCTのマナーだった。多版クラッチシステムのトルコンレスATで、昨今ではAMGやアストンマーティン、それにマツダも使っているけれど、低速域でのマナーに問題があると思う。ギアチェンジがスムーズにいかず、ヘジテーションがどうしても出てしまうのだ。スリップロスの少ないクラッチシステムで、回転数の高い領域ではその小気味よさが嬉しいけれど、ガレージの前でいつもギクシャクされては興ざめというものだろう。特に日本の市街地では気になる場面に多く出遭う。
グランドツーリングカーとしての性能はピカイチ。そこはさすがにメルセデス。ベンツでなくてもバッチリだった。だからこそ、細かな点が気になってしまう。メルセデスのフラッグシップというべき伝統のネーミングが、このまま廃れやしないかと心配になってしまったのだった。
▲インテリアには左右対象デザインのダッシュボードを採用。センターコンソールの11.9インチの縦型メディアディスプレイは、オープン時の光の反射を防ぐため角度が調節できる
▲フロントにはAMGスポーツシートを標準装備
▲後席は「日常的に使うための実用性を高めるもの」と位置付けられ、乗車できる身長制限は150cmまで(チャイルドセーフティシート装着時は135cmまで)となる
▲ラゲージ容量はソフトトップ収納スペースのためオープン時で213L、クローズ時は約240Lとなる
自動車評論家
西川淳
大学で機械工学を学んだ後、リクルートに入社。カーセンサー関東版副編集長を経てフリーランスへ。現在は京都を本拠に、車趣味を追求し続ける自動車評論家。カーセンサーEDGEにも多くの寄稿がある。
メルセデス・ベンツ SL(先代)の中古車市場は?

リトラクタブルハードトップ(バリオルーフ)を備えた2シーターオープン。メルセデス・ベンツの量産車では初となるオールアルミモノコックボディを採用し、軽量化が図られている。メルセデスブランドの上級スポーツモデルであり、極上な乗り心地のラグジュアリーGTカーでもあった。
2022年12月現在、中古車市場には110台前後が流通しており、そのうち前期型と後期型の割合は(わずかに後期型が多いものの)ほぼ同数となっている。平均価格は約620万円だが、SL350の初期モデルなら350万円から探すことが可能だ。一方、AMGモデルは10台前後が流通、こちらはほとんどが後期型となる。そのため、平均価格も1220万円で、1000万円以下の物件はまだ現れていないようだ。
▼検索条件
メルセデス・ベンツ SL(先代)× 全国▼検索条件
メルセデスAMG SL(先代)× 全国【関連リンク】
あわせて読みたい
Eクラスが5代目なら200万円台で狙える? ベンツのプレミアムセダン、中古車状況やオススメの狙い方を解説
“日本の誇り” 日産 R35 GT-Rは果たしてスーパーカーなのか?【スーパーカーにまつわる不思議を考える】
’07 フェラーリ F430|空力とヘリテージが息づくV8ミッドシップ【名車への道】
おトク感重視ならあえて輸入車狙いもアリ? 中古車ならではの値落ち率に注目せよ!【中古車購入実態調査】
若い世代は人と同じ車はNG? 周りとちょっと違う個性的な1台を中古車で【中古車購入実態調査】
’73 シトロエン DS|独自のデザインと乗り心地、そのすべてに“哲学”がある【名車への道】
フェラーリの維持費ってどれくらいかかるの? そんなリアルな疑問、専門店に聞いてきた!
~300万では選べない、1000万では高すぎる~ 600万円で探せる一度は乗っておくべきクルマ【カーセンサーEDGE 2025年11月号】
マセラティ MC12ストラダーレ最高額落札の盛り上がりの陰で、マクラーレンの“最終車両”コレクションがひっそりと販売されていた!?
エントリーモデルとして成功を収めたフェラーリの“V8フロントエンジン”の系譜とは【スーパーカーにまつわる不思議を考える】









