スバル STI S210 ▲500台限定のSTIコンプリートカー「S210」の抽選結果が発表されましたが、多くの人が「ハズレ」となってしまったかと思います。とはいえ、いつまでも嘆いていても仕方ありません。気持ちを切り替え、今すぐ買える「S210の代わりになり得るモデル」を探すことにしましょう!

500台の枠に対して数千人の愛好家が申し込んだが……

今年1月に開催された東京オートサロン2025にて、STI製コンプリートカーの最新作「S210」のプロトタイプが世界初公開された。

今さらご説明の必要はないかと思うが、STI(スバルテクニカインターナショナル株式会社)とは、スバルの市販車をベースとするモータースポーツ車両の開発や、モータースポーツで培ってきた技術を応用した高性能完成車やスポーツパーツなどの企画・開発・販売を行っているスバルの直系企業。

そしてSシリーズは、そんなSTIがモータースポーツで得たノウハウをつぎ込んで開発した、台数限定生産の特別なコンプリートカー(完成新車)だ。
 

スバル STI S210▲こちらが2025年5月22日から6月29日まで抽選エントリーが行われていた「S210」
スバル STI S210▲S210のインテリア。シートはバックシェルに軽量素材のドライカーボンを採用したRECARO製で、8ウェイ電動パワーシートやシートヒーター、SRSサイドエアバッグを内蔵している

2019年に登場した「S209」は米国市場でのみ販売されたため日本では欠番となったが、続いて登場した「S210」は、STIが2008年から参戦し続けているニュルブルクリンク24時間レースで得たノウハウをつぎ込み、磨き上げたうえで、日本でも2025年5月22日に発売された。

しかしながらS210は「抽選」による販売だった。7月10日に発表された抽選結果にもとづき、全国で500人の愛好家は車両価格870万円にてS210を購入する権利を得たわけだが、数千人の愛好家は抽選に外れ、涙をのむことになった。その無念を思うと、筆者も思わず泣けてくる。

そこで――というわけでもないのだが、とにかく泣いてばかりもいられないので、この記事では「今すぐ買えるS210の代替案」を提案させていただくこととする。
 

 

代替案1:スバル WRX S4(2代目) STI Sport#
→想定予算:総額580万~670万円

S210はいたずらにパワーを追求したコンプリートカーではなく、やみくもにMTであることにこだわったわけでもない、スバルWRX NBR CHALLENGEの直系モデルとして「ドライバーがより意のままに車両を操れる操縦性の実現」を強く意識した1台だ。

であるならば、ノーマルの現行型WRX S4を磨き上げた限定車「スバル WRX S4 STI Sport#」であっても、S210と同じとは言わないが、近いニュアンスの満足を得ることはできるのではないだろうか。
 

スバル WRX S4▲現行型スバル WRX S4 STI Sport R EXをベースとする特別仕様車「スバル WRX S4 STI Sport#」

2024年1月に限定500台で発売されたWRX S4 STI Sport#は、現行型WRX S4 STI Sport R EXをベースとする特別仕様車。

パワーユニットはSTI Sport R EXと同内容のFA24型2.4L水平対向4気筒ターボだが、足元には245/35R19のミシュラン製ハイパフォーマンスタイヤ(パイロット スポーツ5)と、操舵時の車両応答性を高めるため、前後で異なる形状としてタイヤの接地面積を最適化したSTI製フレキシブルパフォーマンスホイール(BBS 19インチ×8 1/2J鍛造)を採用。

そしてその他、S210にも装着されたSTI製フレキシブルドロータワーバーやSTI製フレキシブルドロースティフナー、スバルパフォーマンストランスミッションフルードクーラーなども採用したうえで、ウルトラスエードのRECAROシートを装着しているのが、WRX S4 STI Sport#の大まかな特徴となる。
 

スバル WRX S4▲ウルトラスエードのRECAROシートは8wayの電動調整式

もちろん、その他の様々な部分にも超専用セッティングが施されているS210と、STI Sport#同列に並べるわけにはいかないだろう。

しかし、我々は何もニュルブルクリンクサーキットで戦おうとしているわけではなく、あくまでも公道をスポーティに愉しく走りたいと考えるドライバーだ。

そうであるならば、WRX S4 STI Sport#であってもある意味十分以上であり、もしもさらなるパフォーマンスとフィーリングを求めたいのであれば、車両購入後にSTIパフォーマンスマフラーやSTIラテラルリンクセットを後付けするという手もある。

そして今、WRX S4 STI Sport#の中古車は、S210よりも断然お安い「総額600万円前後」にて購入可能。ある部分を割り切ることさえできるなら、WRX S4 STI Sport#はS210の代替品としてベストに近いように思うが、いかがだろうか。
 

▼検索条件

スバル WRX S4(2代目) × STI Sport#
 

代替案2:スバル WRX STI(初代)EJ20ファイナルエディション
→想定予算:総額620万~800万円

個人的にはWRX S4 STI Sport#が代替品としてのベストであるように思うが、やはり「中身の部分がもっとスペシャルじゃないと物足りない」と考える人もいらっしゃるだろう。

ならば、VA型WRX STIおよびEJ20ターボエンジンの最後を飾った「スバル WRX STI EJ20ファイナルエディション」でどうだろうか。
 

スバル WRX STI▲555台限定で2019年に発売された「スバル WRX STI EJ20ファイナルエディション」

ご承知のとおりWRX STI EJ20ファイナルエディションは、2019年10月に555台限定で発売された特別仕様車。同年度内に生産終了となるEJ20型水平対向エンジンのピストン&コンロッドの重量公差を標準モデル比で50%低減するとともに、回転バランス公差を85%低減したクランクシャフトを採用。

さらには回転バランス公差を50%低減したフライホイール&クラッチカバーも採用した「バランスドエンジン」が最大の特徴となる 1台だ。

さらに内外装の部分でも、世界ラリー選手権で活躍したマシンをほうふつさせるゴールド塗装のBBS19インチ鍛造アルミホイールや、STIのコーポレートカラーであるチェリーレッドのアクセントを採用したフロントグリルやリアバンパー、ウルトラスエード巻きステアリングホイールやシルバーの左右3点式ELRシートベルトなど、数々の専用装備が魅力となる「EJ20型エンジン搭載車の集大成」だった。
 

スバル WRX STI▲ショートストロークタイプのエンジンを高回転域まで回し切るために、ピストンとコンロッド、クランクシャフト、フライホイールとクラッチディスクカバーといった回転系はバランス取りがされている。またピストンと組み合わせるシリンダーも選別品が使用された
スバル WRX STI▲専用RECAROシートと専用シートベルトを採用するが、インテリアの世界観に過剰な派手さはなく、落ち着いたイメージでまとまっている

限定555台の新車はあっという間に完売となってしまったWRX STI EJ20ファイナルエディションだが、その中古車は今、総額620万~800万円のゾーンで普通に検討可能。

S210と様々な部分で異なる性質をもつ車ではあるが、こと「特別な1台」という意味では、大いに似ているのではないだろうか。
 

▼検索条件

スバル WRX(初代) × STI EJ20ファイナルエディション
 

代替案3:スバル WRX STI(初代)S207またはS208
→想定予算:総額550万~870万円

個人的には、パフォーマンスの高さを求める場合はスバル WRX STI EJ20ファイナルエディションで十分と感じるが、やはり「Sシリーズじゃないと本当の意味で満足はできない」と考える人もいらっしゃるだろう。

ならば、1世代前のスバルWRXをベースとするSTIのコンプリートカー「S207」または「S208」でどうだろうか。
 

スバル STI S207▲初代WRX STIのB型をベースとする「S207」
スバル STI S208▲こちらは大幅改良を受けたD型ベースのコンプリートカーである「S208」
 

S207およびS208は、初代スバル WRX STI(VA型:2014~2021年)をベースとするSTI製コンプリートカー。B型がベースのS207は2015年10月に400台限定で発売され、D型をベースとするS208は2017年10月、450台限定で発売された。

パワーユニットはいずれも専用チューンが施されたEJ20型2L水平対向4気筒ターボで、S207は最高出力328ps、S208は同329psをマーク。フロントサスペンションには専用開発のビルシュタイン製減衰力可変ダンパー「DampMatic II」を採用し、RECARO製バケットタイプシートやSTIの様々な機能パーツも付与されている。

また、後期型に相当するS208の「NBR CHALLENGE PACKAGE」グレードでは、軽量なドライカーボンルーフが採用されている点も特徴だ。
 

スバル STI S208▲こちらはS208の「NBR CHALLENGE PACKAGE」。ドライカーボン製のルーフやリアスポイラー、STI製BBS19インチ鍛造ホイールなどが特徴となる

S207もS208も中古車流通量が少ないのがネックではあるが(S207は特に少ない)、S207は総額500万円台後半で、S208は総額700万~870万円付近にて、良質な中古車を見つけることができるだろう。
 

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スバル WRX(初代) × STI S207

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スバル WRX(初代) × STI S208
 

代替案4:BMW M2クーペ(2代目)
→想定予算:総額680万~800万円

ここまではスバル車に限定して「S210の代わり」を探してきたが、考えてみれば、地球は広い。

何もスバル車だけに物事を限定する必要はなく、そもそも今の時代は「S210のように素敵な車でさえあれば、人種や国籍は問わない」というリベラルな姿勢が重要なのかもしれない。

ならば、現行型BMW M2クーペでいってみるというのはどうだろうか?
 

BMW M2クーペ▲現行型BMW M3/M4と同種の3L直6ツインターボエンジンを搭載する現行型BMW M2クーペ

2023年2月に上陸した現行型BMW M2クーペは、全長4580mm×全幅1885mm×全高1410mmというS210におおむね近い寸法のクーペボディに、M3およびM4の3L直6ツインターボエンジンに小変更を加えた最高出力460ps/最大トルク550N・mを発生するS58系ユニットを搭載。

駆動方式はAWDであるS210とは異なるFRだが、「意のままに走れるアツい車」という意味では、おおむね同類と考えていいはずだ。ちなみにトランスミッションは8速ATと6MTが用意されているが、中古車市場ではAT車の割合が圧倒的に高い。

車両重量1730kgのクーペボディに最高出力460psの3L直6ツインターボという組み合わせゆえ、現行型M2クーペの走りは当然ながら強烈かつ猛烈だが、S58ユニットは低回転域からトルクフルであり、「Mドライブ」で可変ダンパー制御を「コンフォート」にすれば、Mモデルとしては比較的しなやかでソフトな乗り味を堪能することもできる。

そしてブランド性というかモノとしての価値という面でも、BMWの「M」は、スバルの「STI」とおおむね同様のバリューを感じ取れるはずだ。
 

BMW M2クーペ▲全長は4580mm。かなり大柄になってしまった現在のMモデルの中では最もコンパクトだ

3L直6ツインターボの最高出力が480psに増強された2024年10月以降の改良型世代は、中古車であってもまだまだ高額だが、460ps世代であれば8速AT車が総額680万円~で、6MT車が700万円~というイメージ。

S210以下の金額で、S210と――方向性はやや異なるかもしれないが――同等または同等以上のパフォーマンスが得られる選択肢として、もしも「スバル車じゃなくてもOK」と考えているのであれば、ぜひご注目いただきたい。
 

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BMW M2クーペ(2代目)
 

代替案5:スバル インプレッサハッチバック STI(GRB型)R205
→想定予算:総額330万~530万円

前章にて現行型BMW M2クーペを推したが、考えてみれば、S210の抽選に申し込むほどのスバリストにはスバルの車を推すのが妥当なのかもしれない。

しかしS207とS208は本稿内にすでに登場しており、もっと前の世代のS203あたりだとスパルタンすぎて、「ドライバーが意のままに車両を操れる操縦性」を主題とするS210とはキャラが違いすぎるような気もする。

であるならば、SではなくRoadの「R」を車名に冠したSTIコンプリートカー、「スバル WRX STI R205」はどうだろうか?
 

Aクラスセダン▲先頭の文字がSではなく「R」となる希少なSTIコンプリートカー、GRB型R206
 

2010年1月に400台限定で発売された「スバル WRX STI R205」は、3代目(GRB型)インプレッサWRX STIスペックCをベースとするSTI製コンプリートカー。 前述したとおり、車名の「R」という文字はRacingではなくRoadから取られたもので、ニュルブルクリンク24時間耐久レースで培ったテクノロジーを惜しみなくフィードバックしつつも、その名のとおり「公道での走り」にこだわり、最良のロードゴーイングカーを目指して開発された1台だ。

EJ20型2L水平対向4気筒ターボエンジンは専用ボールベアリングツインスクロールターボや専用エグゾーストパイプなどにより最高出力320psまでパワーアップされ、ブレーキシステムにはブレンボ製モノブロック対向キャリパーと2ピースディスクローターを採用。

そしてエクステリアにはSTI製フロントアンダースポイラーやリアアンダースポイラーなどの硬派な空力デバイスを追加しているR205ではあるが、そのビジュアル的はかなり抑制的。

そのため、いわゆる車好きでなければ「特別な1台」であることは見抜けないという点も、ディープなマニアとしては逆に好ましいポイントだ。
 

Aクラスセダン▲中身はしっかり専用チューンが施されているが、アピアランス的には比較的地味である点が逆に好ましい

そして乗り味にも荒っぽさはいっさいなく、ステアリングフィールも滑らか。さらにエンジン特性も――もちろん高回転域まで回せば鬼のように速いが――タウンスピードの領域から十分以上にトルクフルであるため、わざわざ峠道やサーキットなどへ行かずとも、その辺の交差点を普通に曲がるだけで楽しめてしまうという1台なのだ。

そんなR205は、よく考えてみればS210の代替案としては「時空を超えた最有力候補!」にも思えるわけだが、残念ながら2025年7月現在、中古車は非常に希少。具体的には本稿執筆時点で2台しか流通していない。

とはいえ「0台」ではないので、その気になれば入手はできる。S210の「過激すぎない」という部分にホレていた人であれば、R205の特性はかなり気に入るはず。今や残り少ない中古車に、ぜひぜひご注目いただきたい。
 

▼検索条件

スバル インプレッサハッチバック STI(GRB型)R205
文/伊達軍曹 写真/スバル、BMW
※記事内の情報は2025年7月16日時点のものです。
伊達軍曹

自動車ライター

伊達軍曹

外資系消費財メーカー勤務を経て出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル レヴォーグ STIスポーツR EX Black Interior Selection。

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