2157psの新開発V12クアッドターボエンジンを搭載! イタリアン・スーパーカーの聖地で誕生した新プロジェクトの行方は?【スーパーカーにまつわる不思議を考える】
カテゴリー: トレンド
タグ: EDGEが効いている / 越湖信一
2025/07/19

スーパーカーという特殊なカテゴリーはビジネスモデルとして非常に面白く、それ故に車好きにとって興味深いエピソードが生まれやすい。しかし、あまりにも価格がスーパーなため、多くの人はそのビジネスのほんの一端しか知ることができない。
今回は、モデナを中心とするイタリアン・スーパーカーの聖地であるモーターヴァレーで誕生するも多くが消えていくスーパーカー・プロジェクト。その新たなる挑戦者を紹介する。
モーターヴァレーで誕生し続ける“スーパーカー・プロジェクト”
モデナを中心とするイタリアン・スーパーカーの聖地=モーターヴァレーでは、先日、地域の自動車産業挙げての大イベント、モーターヴァレーフェストが開催され、多くのギャラリーを集めた。しかし、その裏では寂しいニュースが聞こえてくることもある。そう、いくつものスーパーカー・プロジェクトがここで誕生するが、悲しいかな、その多くは消えていくのだ。
EVとPHEVスーパーカーの開発・生産を当地で行うと、鳴り物入りでスタートしたSilk-Faw (中国・北米合弁事業)を覚えておられるだろうか? モーターヴァレーにおける大きな雇用を掲げ、クリエイティブにおけるワルター・デ・シルヴァの参画など、スケールの大きなプロジェクトは順調に進むかのように見えていた。しかし今ではもう何も聞こえてこない。
元ロータスのCEOであったダニー・バハー率いるARES MODENAはモデナに大規模なファシリティを構え、昨今のブームに先駆けてレストモッド・スーパーカーをラインナップしていた。モデナ中心部、ボローニャ空港、サルディーニャのビーチなど一等地にショールームを構えていたが、こちらも資金難で突如、操業休止となってしまった。
今やフェラーリをはじめとする既存ブランドが少量生産の限定モデルを含む、隙のないラインナップを組んでいるため、なかなか新しいブランドがスーパーカー・マーケットへと入り込む余地がなくなっているのだ。
しかし、そんな中でもさすがはスーパーカーの聖地たるモデナ、果敢なチャレンジャーたちが集まってくる。


新たなプロジェクトはゼロから開発された“スーパーカー”
5月にはジャマロ・アウトモビリのローンチを発表する大イベントがモデナ郊外に位置する彼らのファシリティで行われた。筆者を含む世界各国のジャーナリストにインビテーションが届き、当日は200名を超える招待客が集まるというかなりの規模のイベントが開催された。
ジャマロ・アウトモビリは2021年にシシリーをベースとするジャコモとピエールフランチェスコ・コメンダトーレ親子によってモデナに設立された。ファミリーはパガーニの重要な出資者でもあり、パガーニのビジネスをベンチマークとしていることは間違いないだろう。
このプレゼンテーションの主役はゼロから開発された6988cc、120度V12クアッドターボエンジンであった。ギャレット製ターボチャージャーを4基装着し、最高出力2157ps/最大トルク2008N・mという途方もないスペックを9000rpmで発揮するという。
このコンフィギュレーションはモデナ・カンポガリアーノ産のブガッティ EB110をほうふつさせる。このプロジェクトが無事完成したならば、モデナのニューカマーの手によるエンジンとしては、このブガッティ以来のモノになるのではないか。ちなみに、このエンジンはキメラ EVO37などのエンジンを開発・製造するトリノのイタルテクニカの手によるものだという。

もちろん発表されたのはエンジンだけではない。ミッドマウントエンジンレイアウトのCFRPセンターモノコックとアルミニウム製サブフレームに、Cd値0.33を誇る幅広く低いクーペボディをまとった「クラフラ(KRAFLA)」とスポーティなSUV(私のアタマの中にはイタルデザイン・パルクールが浮かんだが)の「アルボール(ALBOR)」ボディもアンベールされた。
この2種類のボディに件のV12エンジンが組み合わされるということなのだ。


現段階ではまだV12エンジン、AMTの11速ギアボックスは完成しておらず、「クラフラ」はプレゼンテーション用のダミーエンジン(と思われる)にて、そろそろとギャラリーの前に現れた。
ボディまわりのスペックは全長4791mm×全高1188mm×全幅2027mm、ホイールベース2750mm、車重1450kgと、フェラーリ SP3あたりがベンチマークとなる。スタイリング開発は3Dモデリング作業において多くのクライアントを持つトリノのCAMAL STUDIOが担当する。
「クラフラ」に関してはかなり詳細までスペックは定まっており、正式な案内ではないが、2026年末~2027年初頭の完成を目標とするようだ。価格などはまだ発表されていないが、ぜひ、完成してもらいたいプロジェクトだ。ローンチイベント当日は、ブガッティやパガーニの開発ドライバーとして有名なロリス・ビコッキもプロジェクトの一員として姿を見せた。実際、マーケティングや筆者に声をかけてくれた広報スタッフなどパガーニの職歴を持った顏ぶれが並んでいた。
新開発でピュアな内燃機関の12気筒パワートレイン採用と、キャリーオーバーなしにすべてをゼロから作り込むという、エクスクルーシブな打ち出しは、どのようにターゲットユーザーの心をつかむか、とても興味深い。あまり明るいニュースがなかったモデナ界隈であったが、久々に飛び込んできたニュープロジェクトがどのようなかじ取りで進んでいくか大いに期待したい。





自動車ジャーナリスト
越湖信一
年間の大半をイタリアで過ごす自動車ジャーナリスト。モデナ、トリノの多くの自動車関係者と深いつながりを持つ。マセラティ・クラブ・オブ・ジャパンの代表を務め、現在は会長職に。著書に「フェラーリ・ランボルギーニ・マセラティ 伝説を生み出すブランディング」「Maserati Complete Guide Ⅱ」などがある。
【関連リンク】
日刊カーセンサーの厳選情報をSNSで受け取る
あわせて読みたい
初めてのポルシェ 911はコレを! モダンクラシックな「996型」と「997型」の魅力と現状と真実を専門店に聞いてきた
【試乗】新型 ポルシェ マカン|BEVでもエンジン車と変わらぬポルシェらしい自然なドライブフィールが味わえる!!
【試乗】新型 アウディ Q6 e-tron|快適な乗り心地と扱いやすさで幅広い層にアピールする最新BEV!
【試乗】新型 ランドローバー ディフェンダー オクタ|オフロードでもオンロードでも “究極のパフォーマンス”を発揮する635psのラリーベースモデル
【試乗】新型 メルセデスAMG GT63 S Eパフォーマンス 4ドアクーペ|AMG謹製V8エンジンを感じさせてくれるパフォーマンス志向のPHEVモデル
【試乗】新型 フィアット 600ハイブリッド|ドライバーをとりこにするハンドリング、これぞイタリアンコンパクト!
~スポーツカーの究極の系譜~ 911は 役付きか? カレラか?【カーセンサーEDGE 2025年8月号】
マセラティのCEOがフェラーリへの納車を“わざわざ”SNSにポストした意味とは?【スーパーカーにまつわる不思議を考える】
【試乗】新型 ポルシェ タイカン ターボGT|ドライビングダイナミクスの質を一気に2段くらい上げてしまったトップモデル!
【試乗】新型 フォルクスワーゲン ゴルフ R|走行性能アップでクルージングからサーキットまでこなす“真のオールラウンダー”へ!