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【連載:どんなクルマと、どんな時間を。】
車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?

流行ではなく、心が響くものを選ぶ。

派手なキャデラックでエンコの苦い経験も、家族と過ごしたファミリーカーを経て——たどり着いたのは、等身大で気持ちよく走れ、デカールで自分らしく仕立てられたマツダ CX-30だった。

軸にあるのはいつも「遊び心」と「自分らしさ」、そして“仕事道具としての美意識”だ。

都内でデザイン事務所を率いるグラフィックデザイナー、加藤浩之さんは、姉妹誌『カーセンサーEDGE』をはじめ、ライフスタイル誌や交通広告、サッカークラブのクリエイティブ制作まで幅広く手がける。

現役アートディレクターにとって、車は移動手段であり「走るシグネチャー」だ。

その定義は、マツダ CX-30にライトデカールを添える——最小限のカスタマイズで、ようやく自分の形になった。
 


▲特別色ジルコンサンドメタリックをさらに際立たせるデカールチューン&足元のタイヤ&ホイール

最初の愛車を手にしたのは20歳の頃。1972年式空冷ビートルだった。

「15万円で手に入れて、塗装から内装、ホイールまで全部自分でいじりました。お金はなくても手は動く」

“何でも自分でやる”のが当たり前だった時代に培ったDIYの手触りは、いまも価値観の芯にある。そして、それが本当に楽しかったと加藤さん。やがて上京すると、東京の駐車場が月5万円という現実に直面し、いったん車を手放した。
 

▲ボンネットスクープを思わせる、アメリカンテイストあふれるデカールチューン。エッジが曖昧なため、ラインどりに苦労したそう

その後、仕事の幅を広げ、30歳でデザイン事務所『Phantom Graphics』を起業。独立と同時に、憧れのキャデラック エルドラドを手に入れた。全長5m超のターコイズボディにビニールトップ、クラシックグリル、ワイヤーホイール——いわゆる80年代の“やんちゃ”をまとった1台だったという。

「でも、渋谷のど真ん中でエンコしました。金曜午後の大渋滞のさなかに。トランクを開けてハザードつけても、もうクラクションの嵐。警官が8人も駆けつけて……今ではトラウマです(苦笑)」

それでも懲りず、次はFF駆動の“少し小さな”フリートウッドへ。ところが、こちらも故障が続き、泣く泣く手放すことに。やがて子供が生まれると、初の新車としてジープ ラングラー(アンリミテッド)を選んだ。
 

▲今年還暦を迎え、今も最前線で辣腕を振るう加藤浩之さん。Phantom Graphicsの代表取締役社長

以降、車はファミリーカー的側面も担う。

シトロエン C4ピカソ、レースのシートカバーが“ニクい”法人名義の日産 セドリック、いまも娘二人に好評というフォルクスワーゲン ニュービートル、そしてジープ レネゲード(トレイルホーク)へ——と、家族はもちろん、“自分が楽しいか”で選んだ個性派を乗り継いできた。

そんな愛車遍歴の背景には、加藤さんなりの基準がある。

「選ぶ車種に統一感はないかもしれませんが、いわゆる人気車種はあまり選びません。ハズしのモデルを選ぶことで安く手に入りますし、何より人と“かぶらない”ぶん楽しいんです」

アートディレクターという立場ゆえ、日々アウトプットをし続けること40年余り。2~3年で次の1台へ心が動くという加藤さんが昨年、新たな愛車として選んだのはライフスタイルメディアの特集で目に留まったマツダ CX-30だった。

▲エンブレムもブラックアウト。「アクセサリーの選べる幅が少ないのが惜しいところ」と加藤さん

「特別仕様車『レトロスポーツエディション』のマットな世界観に刺さりました。このCX-30はCX-5ほど背は高くないし、小回りも利く。自宅の車庫は縦列駐車タイプなので、日常にちょうどいい“身丈”なんです」

選択の決め手には、海外での原体験もあるという。

「仕事で訪れたカリフォルニアで、日本車の圧倒的多さに衝撃を受けたんです。灯台下暗しといいますか」

基幹産業である日本の車が異国の地で走る姿に感銘を受け、国産車を見直すきっかけになったとも。

とはいえ、デザイナーの審美眼で選ぶと“もう少し”クセが欲しくなるという。
 

▲今後は車種展開を拡充し、マツダ CX-50、マツダ 3などといった遊び心あふれるライトデカールの設計・販売を視野にしている。「キ85 デザイン」の詳細はこちら(※外部サイトに遷移します)

「自分好みで選ぶと、せんえつながら“どれもちょっと物足りなくて”。マツダは引き算のデザインでとても素晴らしいスタイリングなのですが、アクセサリー展開も少なく、シンプルすぎて遊び心が足りないかなと(汗)。本国のCX-50には、デカールチューンでマッシブな仕様があるのに、日本では皆無。だからこそ、デカールを貼ったライトチューンで個性を加えてみました」

作業は徹底してクリエイティブだ。設計図を起こし、デカールプリントを実車に当てて検証。知人のラッピング業者と数ミリ単位で位置を詰め、こうして“唯一無二”のCX-30が生まれた。
 

▲ホイールキャップはボディ同色とシルバーメッキとで、2種類を用意。気分によって着せ替えも

うれしい反響もすでに届いている。車両を購入したディーラー担当者からは「街で偶然加藤さんのCX-30を見かけたお客さまから、デカールについての問い合わせがあった」とちまたでも好評だという声も。

パンデミック後は、生まれ故郷である山形・山寺にもデザイン拠点を構え、東京と山形をつなぐロングツアラーとしても活躍中というCX-30。走行距離はすでに1万kmに達しているという。

「東京—山寺の往復およそ800kmは、運転支援をオンにして“ラクラク”。都会の喧騒から山形へ、移動中に頭が整うんです」
 

▲遊びの幅が広がるキャリアはシンプルなジャパンメイドをセレクト

人気ではなく、“自分の好き”を選ぶために。デザイナーの“アシ”として常に美意識を保つために。

「私にとっていまCX-30は、最高の相棒なんです」

今日も“走るシグネチャー”は、現場へと向かう。
 

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マツダ CX-30(初代)
文/カストロ利樹 写真/山本佳代子
マツダ CX-30

加藤さんのマイカーレビュー

マツダ CX-30(初代)

●年式/2024年
●年間走行距離/約2万km
●マイカーの好きなところ/ジルコンサンドメタリックのボディカラーとUSAテイストな見た目
●マイカーの愛すべきダメなところ/まったくもってなし! 
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/洒脱な雰囲気を楽しみたい人に