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第23回 明快なストーリーとリアルな世界観! 映画「F1/エフワン」に出てくる車たち

国内外問わず様々な映像作品(アニメ含む)に登場したあんな車やこんな車を、イラストレーター遠藤イヅルが愛情たっぷりに図説する不定期連載!

久しぶりの更新となる第23回は、映画「F1/エフワン」に登場した様々な車をお送りいたします。

超リアルなF1マシンやチーム

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2022年に公開されたトム・クルーズ主演の映画「トップガン マーヴェリック」の監督ジョセフ・コシンスキーと、「セブン」「オーシャンズ11」など幾多の代表作を持つ大人気俳優ブラッド・ピットが組んだアメリカ映画「F1/エフワン」。

2025年6月の公開以来、好調な興行成績を記録しており、日本でも7月初旬に観客動員数59万人・興行収入10億円を達成した話題作です。

四輪モータースポーツの最高峰であるフォーミュラ1(F1)の世界をベースに作り上げたこの映画の特徴は「リアリティ」。F1の許可のもと、実際のF1グランプリレースを用いた撮影、現役ドライバーであるルイス・ハミルトンによる的確なアドバイスなどが、映画の世界を徹底してリアルに見せています。

ブラッド・ピット演じるドライバー「ソニー・ヘイズ」が所属するチーム「APX(エイペックス)ともに架空なのですが、実在のF1世界にスポッとはまり込んだようにリアルなのです。

APXGPのマシンは、F2マシンをベースにメルセデスAMG F1が製作に協力した「ほんもの」。統一されたロゴや細部デザインのみならず、スポンサーにも実在企業が名を連ねており「APXGPというチームは実在するのでは?」と思わせるレベルです。

そして「らしい!」と感じたのが、劇中に登場するメルセデスAMG GT63 4MATICをベースに、APXGPのイメージを反映した特別仕様車が登場すること。映画内では若手ドライバーのジョシュアが運転しているのですが、ほんとうにAPXGPというチームがあればきっとこんなモデルを発売していたに違いないでしょう。

センス抜群のGクラス

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劇中車の連載なので、出てくる車を紹介しましょう。レースシーンがメインのため、劇中で市販車があまり見られないないのと、メルセデスAMGが公式サポーターに就いていることもあり、登場車種はメルセデスAMGやメルセデス・ベンツが多く見られます。

映画内では、レースのセーフティカーに「メルセデスAMG GTブラックシリーズ」、メディカルカーには「GT63 S 4MATIC+」が登場しますが、これらは映画用に用意されたものではなく、実際にF1で活躍している車そのものです。

ソニー・ヘイズがAPX GPのオフィスへの移動に用いていたのは、右ハンドルのメルセデス・ベンツ Gクラス。高級SUVとして人気が高いGクラスの中でも、ソニーが乗っていたのはW460と呼ばれる初期モデルで、しかもショートボディに車体後半がホロというセンス抜群の仕様。シンプルで無骨な雰囲気は、すご腕ながらも派手さを好まないソニーのイメージにぴったりでした。

激シブなフォードのバンが主人公ソニー・ヘイズの相棒

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ソニーはかつてF1ドライバーだったものの事故でF1を退き、現在は様々なレースの優勝請負人として現役ドライバーを続けているという設定。劇中冒頭には、アメリカのデイトナ24時間レースに、架空のチーム「チップ・ハート・レーシング」のポルシェ 911 GT3Rのステアリングを握っています。なお撮影で使用されたこのマシンは、実際にデイトナ24時間にライト・モータースポーツから映画撮影を兼ねて参戦した他、2025年のル・マン24時間にもマンタイレーシングから出場しています。

そのソニーは定まった家を持たず、キャンピングカーで放浪生活を行なっているのですが、その相棒も激シブ。個性的なマスクを持つクラシックなデザインのフォードの商用車「エコノラインバン」の第2世代をベースにしたキャンピングカーに乗っているのです。

ラギッド感あふれるファットなタイヤ、ハイリフト、右側にはサーフボードを吊るす仕様は、アメリカのミニバンだけでなく1BOXバンや国産ミニバンをカスタマイズするときの参考にもなりそうなカッコよさです。

ストーリーはアメリカンだけど、車やチームはリアル

この他にも、実在のドライバーでフェラーリに所属するシャルル・ルクレールが乗る「フェラーリSF90ストラダーレ」や、メルセデスAMGと同じくレースのオフィシャルカーとして活躍するアストンマーティンなども出てきますので、車ファンは目を皿にしてスクリーンに注目しましょう!

最後はストーリーについて。ネタバレになるので詳細は書きませんが、話の進行自体は単純明快です。「そんなことあるか」っていうツッコミをしたくなる場面もあるかもしれません。しかしそれもよい! 頭をスッキリさせる、良い意味での「良質なザ・アメリカン・エンターテインメント」です。

その一方で、F1の世界を克明に描き出すリアルさは大きな魅力。F1に詳しくなくても、ブラッド・ピットを見にいく! という人でも、F1のみならずレース、さらには車に興味を持ってくれるかも! そんな映画だと感じました。

個人的には、1970年代後半のF1を描いた村上もとか氏のマンガ「赤いペガサス」を思い出しました。赤いペガサスに興味が出たアナタ、ぜひ筆者が「エンスーおじさん」に扮して同作の魅力を語る動画をご覧くださいね。

文・絵/遠藤イヅル
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遠藤イヅル(えんどういづる)

イラストレーター/ライター

遠藤イヅル

1971年生まれ。大学卒業後カーデザイン専門学校を経て、メーカー系レース部門のデザイナーとして勤務。その後転職して交通系デザイナーとして働いたのち独立、各種自動車メディアにイラストレーター/ライターとしてコンテンツを寄稿中。特にトラックやバス、商用車、実用的な車を好む。愛車はサーブ900、VWサンタナほか実用的な車ばかり。