【試乗】新型アストンマーティン DB12ヴォランテ|ハイパフォーマンスモデルもゆったり走るのが気持ちいいと思わせる英国流ラグジュアリーオープン!
カテゴリー: アストンマーティンの試乗レポート
タグ: アストンマーティン / オープンカー / FR / DB12 ヴォランテ / EDGEが効いている / 西川淳
2024/09/02
▲ブランドの中興の祖であるデビッド・ブラウンのイニシャルを冠したDBシリーズの最新オープンモデル。ドライバーズカーであることを最重視し、クーペと並行して開発された全領域で扱いやすく、オープンはさらに乗りやすい
昨年ブランド110周年およびDBシリーズ75周年を迎えたことを機に、DB11がDB12へとスイッチされた。スタイリングはDB11の進化版。そういう意味ではビッグマイナーチェンジなのだが、メーカーによると8割以上のパーツが新設計という。
見た目に大きく違うのはフロントマスクだ。ヘッドライトからグリル、バンパーデザインまでDB11よりかなりアグレッシブに一新した。けれどもその他の特徴的なデザイン、張り出したリアフェンダーやフローティング状のルーフラインなど、はDB11のそれを引き継ぐ。それゆえリアから眺めた印象はDB11とほぼ変わらない。
外装より内装の変化の方が劇的だ。コックピットまわりのデザインなどはフルモデルチェンジ級に変わっている。英国の老舗がいよいよ本気を出したのだ。T字型のダッシュボードは骨太かつシンプルで、優雅な雰囲気をたたえる。デジタルメーターパネルは小さい長方形でモニターに占有されがちな最新モデルにあってとても慎み深い。最初はちょっと物足りなく見えるが、乗っているうちに視界の多くを占めるこの部分のデザインは抑え気味の方が何かと心地よいことが分かる。
センターまわりも激しく変わったエリアの一つ。ボタン式シフターがレバー式となり、大きめのモニターやスイッチ類とともにブリッジ型センターコンソール上に機能的に配置されている。
パフォーマンスも大いに進化した点だ。ウエットサンプのM177型V8ツインターボは最高出力680ps/最大トルク800N・mを発揮。これに新たなギア比とキャリブレーションを得たZF製8速ATを組み合わせる。ESC連動型のE-Diff(エレクトロニック・リア・デファレンシャル)もまたDBモデルとして初装備。その他インテリジェント・アダプティブダンパーや電動パワーステアリング、エレクトロニック・スタビリティ・プログラム(マルチモードESP)の採用など、こちらもやはりフルチェン級の進化だ。
▲接着アルミニウム構造を用いた構造でアンダーボディなどをさらに強化したことで車両剛性の向上とともに、サスペンション取付部の横剛性も強化されている
▲メーターは液晶ディスプレイを採用。コントロール類は人間工学に基づきキャビンのセンターラインに沿って配置されたようやく日本上陸を果たした個体、しかもテスト車はオープンのヴォランテだ。走り出した瞬間から唸った。ステアリングフィール、アクセルの反応、微速域におけるアシの動き方、エンジンの滑らかなフィールなど、記憶にあるDB11ヴォランテとはまるで違ったからだ。青山通りを転がしただけでこう確信する。DB12の方が優れている、と。
まずは全領域にわたっての扱いやすさに嘆息した。これまでのどこか“手こずる”ような印象が消え失せていたからだ。そういう意味では独特なドライブフレーバーが失われたと思う人もいるだろう。電動パワーステアリングの素直な操作フィールなどはその際たるものかもしれない。
DB11のV8版は、確かに力強いのだけれど爆発的な瞬発力には乏しいパワートレインという印象が強かった。フツウのAMGサルーンのようなフィールだ。12気筒のように回せば官能的になるわけでもない。サウンドこそ勇ましいけれど切れ味が悪かった。ところがDB12ではエンジンの速さを感じる。以前と同じ型式のエンジンであるにも関わらず……。
おそらくパワートレイン系そのもののブラッシュアップに加えて、電動パワステやシャシー制御、ボディ骨格の引き締めなどにより、車体全体のレスポンスが飛躍的に俊敏になったことに起因するのだろう。オープンにしても車体の揺れをほとんど感じない。適度に肩の力が抜けて、クーペよりもさらに乗りやすいという好印象だけが募る。
ワインディングロードで試しにシャシーセットをスポーツ+にすると、ハナ先の曲がり方が驚くほどニンブルになった。アクセルコントロールのタイミングが遅れたとしても何ごともなかったかのように曲がっていく。なるほど、DB12はアストンマーティン史上ほとんど初めてコーナリング上手なモデルである。
▲4L V8ツインターボは圧縮比最適化やターボの大型化、冷却強化などにより、DB11比で出力34%アップを果たしているもっとも、これほどスポーツ性能が向上したというのに、ソフトトップを開け、モダンなダッシュボードを眺めつつ、極めつけにエレガントなスタイルをコックピットから頭に思い浮かべてドライブしていると、スポーツ+モードなど無粋だとさえ思ってしまう。ゆったりと風を切るクルーズ走行に徹したい。心からそう思えるあたりもまた、ブリティッシュらしいラグジュアリーオープンモデルというべきだろう。
そう、そのあたりがイタリアンカーとはまるで違う点なのだ。ドライバーをいたずらにおごることなく、心の余裕さえ抱かせつつ、ゆったり落ち着いて走らせようと車の方から導いてくれる、とでも言おうか。ブリティッシュ高級ブランドの真骨頂は、そんなところに表れる。
DB12ヴォランテはスポーツカーであり、極上のグランツアラーでもある。その乗り味の有り難みが分かってきたら、車人生でもようやく“大人”になったということだろう。
▲ソフトトップ収納時の厚みを抑えるKフォールドと呼ばれる機能を採用することで、オープン時のスタイルをすっきりさせている
▲ラジエターグリルの大型化、ワイドなフォルムをさらに強調するLEDヘッドライトの採用などにより、DB11とイメージの異なるフロントマスクとされた
▲クーペ同様、DB11より1インチ大きい21インチ鍛造アロイホイールを標準装備
▲リアスタイルはDB11とほぼ同様。4色が用意されているソフトトップはオープンが14秒、クローズが16秒で操作可能
▲シートバックとドアトリムを同色のウッドやカーボンで仕立てることでクーペと差別化。より贅沢な雰囲気に仕立てられている 
自動車評論家
西川淳
大学で機械工学を学んだ後、リクルートに入社。カーセンサー関東版副編集長を経てフリーランスへ。現在は京都を本拠に、車趣味を追求し続ける自動車評論家。カーセンサーEDGEにも多くの寄稿がある。
先代となるアストンマーティン DB11ヴォランテの中古車市場は?

2+2シーターのラグジュアリーGTであるDB11に、2017年に追加設定されたオープンモデル。V12ではなく、登場時からAMG由来の4L V8ツインターボを搭載していた。8層構造の優雅なソフトトップを備える。
2024年8月下旬時点で、中古車市場には10台程度が流通、支払総額の価格帯は1900万~2700万円。比較的走行距離の少ない物件がほとんどのため、好みのボディカラーや仕様で選びやすい。ちなみに、クーペのDB11は50台程度の中古車が流通、支払総額の価格帯は1300万~2800万円。DB11ヴォランテと同じV8ツインターボ搭載モデルは20台程度が流通している。
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