“日本の誇り” 日産 R35 GT-Rは果たしてスーパーカーなのか?【スーパーカーにまつわる不思議を考える】
カテゴリー: トレンド
タグ: 日産 / GT-R / EDGEが効いている / 越湖信一
2025/10/23

スーパーカーという特殊なカテゴリーはビジネスモデルとして非常に面白く、それ故に車好きにとって興味深いエピソードが生まれやすい。しかし、あまりにも価格がスーパーなため、多くの人はそのビジネスのほんの一端しか知ることができない。
今回は、2025年8月に18年にわたる歴史に幕を閉じた「日産 R35 GT-R」は果たしてスーパーカーなのか? を考察する。
あえて、“スーパーカーでもありスーパーカーでもない”
日産 R35 GT-Rの生産終了が正式に発表された。ローンチが2007年であるから、18年にわたってカタログに載っていたことになる。これは比較的ライフスパンが短い日本車としてはかなり異例なことである。もっともランボルギーニ カウンタックのように25年にわたって生きながらえた“スーパーカー”も存在するが、それは極めてレアなケースだ。
そもそも、GT-Rはスーパーカーなのだろうか? それに関して当モデルの生みの親でもある水野和敏氏が、“あえてスーパーカーでもあり、スーパーカーでもない存在としてのポジションを与えた”といった趣旨の発言を行っていたことを思い出す。
そう、1台のモデルをスーパーカーと見なすのかどうかは、受け手の主観なのだ。だから“水野教”や“田村教”の敬虔なる信者にしてみればGT-Rはスーパーカーなのだろうが、歴代スペチアーレをガレージに並べるフェラーリマニアなら必ずしもそう思わないであろう。
それは、イタリアの歴史ある少量生産メーカーがGT-Rを発表したならばスーパーカーと見なされるかもしれないが、日本の大量生産メーカーである日産が発表したならスーパーカーとは語られない、というようなことなのだ。
そんなことはよくわかっている水野氏であるから、前述のような発言をしたのであろう。


当連載で以前にも語ったが、日本において少ない台数を長年作り続けることはとんでもなく難しい。それはメーカーとしての生産効率性を含めたポリシーであることはもちろんであるが、少しずつ継続して車を作る体制がサプライヤー網を含めて我が国には存在していないからだ。
これは日本に限ったことではなく、北米においても同じことであった。だから、あのフォードもモデナの極小生産メーカーであるデ・トマソ社に、開発から生産まですべてを任せた。
1971年にデビューを飾ったデ・トマソ パンテーラがフォードの販売網にてセールスが行われたのはそんな経緯であった。同じくモデナエリアのスーパーカーブランドであるフェラーリが毎年6台(2025年冒頭の宣言)ものニューモデルを発表し続けることができるのも、そういった少量生産に特化した開発・生産スタイル、そしてサプライヤーが伝統的に存在し続けているからにほかならない。



大多数から認められるに至ってはいないが……
スーパーカーか否かを決めるのは受けて次第である、と述べたが、それではあまりに漠然とした答えとなってしまうので、私見によるその判断基準3ヵ条をお伝えしたい。
1.独自性と持続性、2.稀少性、3.伝説(ストーリー)。それをGT-Rに関してあてはめてみるならば……。
1.独自性と持続性
骨太さを強調した普通のプロポーションをもつ2ドアクーペでありながら、並みいるスーパーカーを蹴散らすハイパフォーマンスを発揮するというユニークな立ち位置は独自性十分。
そして18年間、基本ストラクチャーを変えることなく生産され続けたということは持続性という意味でもなかなかインパクトがある。かなりいい線まできていると思う。
2.稀少性
累計で約4万8000台が生産された、という数値だけを見ると少し微妙なようにも感じる。だが、18年間で割れば年間で約2600台だからまあそれなりのレベルではある。さらに北米やヨーロッパなど、主要マーケットにも限定台数を設定し、マメにデリバリーしているので、△というところか。
しかし、特別なモデルや、近年の最終モデルの入手はそこそこ難しかったものの、ライフスパンを通してディーラーにオーダーを入れさえすればGT-Rを手に入れることはかなったのだから突出した稀少性があるとは言い難い。
3.伝説(ストーリー)
これは難しいところだ。確かに日本のエンスージアストはスカイラン伝説や、開発主査のカリスマ性といったストーリーを感じてはいるものの、それ以上のものではないし、一般の人々や日本を離れたマーケットにおいてはそれが認知されたとまでは言えないのではないか。
そしてこの伝説の項目で重要なのはスタイリングだ。フェラーリの豊かな曲線を強調した優雅なプロポーション、ランボルギーニのカウンタック由来のワンモーション、ウエッジシェイプなど、スタイリングDNAを言語化して語ることは何よりスーパーカーの重要なストーリーである。これは1の独自性とも大いにかかわる項目だが、GT-Rのスタイリングは確固たる伝説を表現していると言うところまでは熟成されていない。
フツーのカタチをした車がとんでもなく速い、というあえてスーパーカーの本筋から“外した”ところがこの車のユニークなところでもあるが、それ以上のストーリーを見いだすことは難しい。やはり、強力なブランドパワーを構築するためには時間が必要なのだ。

そう考えるとGT-Rはまだスーパーカーとして大多数から認められる存在とまでには至っていないのではないだろうか。
しかし、収益性がよいとは思えないこのプロダクトを18年間作り続けた日産の覚悟があったことは素晴らしいことである。にもかかわらず、後継モデルが明確でないまま生産終了となってしまったのは、とてももったいない気がする。
このGT-Rというブランドは日本の誇りなのであるから。


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日産 GT-R
自動車ジャーナリスト
越湖信一
年間の大半をイタリアで過ごす自動車ジャーナリスト。モデナ、トリノの多くの自動車関係者と深いつながりを持つ。マセラティ・クラブ・オブ・ジャパンの代表を務め、現在は会長職に。著書に「フェラーリ・ランボルギーニ・マセラティ 伝説を生み出すブランディング」「Maserati Complete Guide Ⅱ」などがある。
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